2007年8月8日~8月17日 文●荻原文彦(東京本社)
ライトアップされたポタラと花火
例年多くの方に参加いただくショトゥン祭ツアーですが、今年は青蔵鉄道人気の波に乗り、4コース合計42名のお客様がラサに集いました。
今回私が添乗員として同行したコースは『青蔵鉄道で行く 遙かなる聖都ラサとシガツェ・ギャンツェ ショトゥン祭スペシャル10日間』、青蔵鉄道&チベット3都&ショトゥン祭というまさにスペシャルコースです。 ラサではショトゥン祭に合わせてポタラ宮広場で花火が上がったり、セラ寺ではツォクチェン(大集会堂)で問答の試験を目の当たりにしたり、ギャンツェ近くの村では競馬祭を見学したりと、幸運の重なる10日間でした。 私を含め、お腹の調子を崩す方が数名いらっしゃいましたが、びっくりするくらい高所順応がスムーズにいき、無事ツアーを終えることができました。
青蔵鉄道2,000km!
青蔵鉄道はすでに何名かのスタッフからの報告がありましたし、NHKの番組で様子はわかっていたのですが、やはり実際に乗ってこその魅力がありました。 西寧は中国のほぼ真中に位置し、ここから永遠の聖都ラサまでは約2,000kmの道程です。
西寧のローカル・スーパーで、おやつ(ヤクジャーキーやひまわりの種など)を買い、夕暮れの青蔵鉄道のホームに立った時は「これからラサへ向かうんだ~。」と、さすがに興奮しました。
夜、若干息苦しく熟睡できなかった方や吐き気におそわれる方もありました。西寧(2,250m)からゴルムド(2,828m)まで寝台車で一晩眠るのですが、途中標高3,600m程度を通過します。寝ている間の気圧変化は、やはり体に何かしらの反応をもたらすようです。
ゴルムドからは、大きなトラブルもなく25時間の鉄道の旅ができました。
あっという間のタングラ駅
特に印象に残ったのは、ゴルムドから崑崙山脈に突入し最初に見えた雪山“玉朱峰”(6,178m)と、ラサ到着間際の夕闇迫る中見えた聖山“ニェンチェンタンラ山”(7,162m)の二つの山。それから、車窓に広がる青きツォナ湖。「ここで降ろして!」「ちょっと速度落として!」と思うポイントは多々ありますが、列車はひたすらラサを目指して走ります。最高地点のタングラ駅(5,068m)も、動力を保ち一気に峠を越えるためあっけなく通 り過ぎてしまいます。噂に聞いておりましたが、やや落胆。
しかし青蔵鉄道には、帰国後じわじわと感動を呼ぶシーン(例えば遠くにぽつんとたたずむ牧民や、山腹に小さく見える山羊やヤクの姿など)がたくさんあるように思いました。
また、巡礼者が多くいる硬座車両で積極的に交流するお客様の姿も印象的でした。
玉朱峰(6,178m)を望む
硬座にて
青きツォナ湖
ツォナ湖にさしかかったときの
車内の様子
ショトゥン祭
風のチベットを支える現地旅行会社(TNY)と、達人、駐在皆のサポートがあって、今年のショトゥン祭も盛大に無事終えることができました。
ショトゥン祭のタンカは、東向きの山の斜面に日の出に合わせて開帳されます。暗いうちにデプン寺に集まり朝食をとりながら待機するのですが、昨年の休憩ポイント“風のテント村”からグレードアップして、今年はなんとデプン寺の僧侶が読経したり勉強するための建物を貸していただいたのです。横長の部屋は向かい合うように座布団が並べられているため、皆ついつい正座して向かい合ってしまうのが可笑しかったです。
外は澄み切った空気と星空。タンカが掲げられる斜面には、祈りのお香(サン)が焚かれ、既に人が集まり始めており、懐中電灯が蛍のように揺れていました。
夜を徹してスタッフが準備してくれた朝食をいただき、7:30頃グループごとにタンカ台を目指します。途中、ツォクチェン(大集会堂)からタンカが運び出される瞬間に立ち合うことができました。ありがた~いタンカに触れようと巡礼者が殺到します。体調を崩していた方が、巡礼者にまざりタンカに触れると、その後すっかり調子がよくなったのでした。
8:00過ぎタンカ台の下に全員集合した後は、溢れる巡礼者と旅行者にまじりながら、各自タンカのご開帳を見学しました。中には、コルラ(巡礼)しながらタンカの下をくぐった方もいらっしゃいました。
2時間ほど見学をし、帰りも特別に許可をもらったデプン寺のバスに乗り、規制のない麓の大通 りへ出ました。途中、これからセラ寺のタンカやノルブリンカを目指す人々、木陰でピクニックをする巡礼者の姿をみて、「やっぱりラサは永遠の聖都なんだなぁ。」と感じました。
風の休憩所
手を貸しあい、岩場を行く
ツォクチェンからタンカが運び出される
快晴の空の下、タンカご開帳
ギャンツェとシガツェ
ヤムドク湖と菜の花畑
もし日数が許すならば、ラサを中心とする“ウ”地方だけではなく第2の都市シガツェや古きよき姿が残るギャンツェといった“ツァン”地方へ足を伸ばすのがお勧めとよく言われます。
今回私たちは、途中“トルコ石色の湖”ヤムドク湖をカンパラ峠(4,750m)から眺望。ほんの少しノジンカンサン(7,191m)方面 の雪山が見れました。ヤムドク湖への高原道路は、信州のビーナスラインの雰囲気で、ヤムドク湖は車山辺りから見る白樺湖のような感じです(ただしスケールは100倍以上!?)。
4,300m付近ではブルーポピーを見ることができ、発見するたびに車内が沸きました。
遥か西の聖山カイラスから流れてくるヤルンツァンポ川沿いに、渓谷や大穀倉地帯など変化に富んだ自然を車窓から見るのも気持ちがよく、菜の花も鮮やかに見ることができました。
シガツェのタシルンポ寺やギャンツェのパンコル・チューデでは、比較的観光客の少ない静かな観光ができます。特にギャンツェのチベタンテイストを残した集落や、ネパールのネワール様式を取り入れた15世紀のチベット芸術は、予備知識がなくても「いいなぁ。」と感じさせるものがありました。
パンコル・チューデ本堂
ギャンツェの牧草地
ショトゥン祭から1週間はお祭り休暇になり、各地でお祭りがあります。今回、シガツェからギャンツェへ向かう途中の集落で、競馬祭に遭遇しました。村人は、老いも若きもお洒落をして集まります。男性人は、自分の馬を飾り立てます。5頭位 ずつ何回かに分けて競走するのですが、とってもおとなしい馬や見当違いの方向へ駆け出す馬など、素朴な感じに心を癒されました。
予想外のお祭り見学で、村の子供達と写真を撮りながら交流できたことも、とても印象に残りました。
競馬祭にて
村の子どもたちと交流
ラサへ向かう帰路、車道をひたすら五体投地しながらラサの中心ジョカンを目指す、信仰心の篤い巡礼者を目の当たりにした時、鉄道の開通 など開発の進むチベットを見てきただけに、胸にグッとくるものがありました。
ジョカンに集う巡礼者たち
青蔵鉄道によって、チベット世界への入り口がとても広がり、これからも多くの人々がラサを訪れることでしょう。世界中の旅人の目に、チベット世界はどのように映るのでしょうか。
今回ご参加いただきました皆様には、チベットの神秘的なところや篤い信仰、匂いや自然といったものを直接感じていただけた部分があったと思います。ラサ近郊の民家訪問を喜んでいただけたのがとても嬉しかったです。