コース名:青蔵鉄道で行く 冬のラサ7日間
2013年12月28日~2014年1月3日 文●中台 雅子
冬の澄んだ青空に映えるポタラ宮
青海省の西寧から南へ、チベット高原の大地をひた走る約24時間の青蔵鉄道の旅を経て、私たちはチベットの聖都ラサに到着しました。標高約3600mの冬のラサ。ピリッとした空気が張り詰め…寒い!のですが、わざわざこの時期に訪れることに意味があります。農閑期にあたる冬季、ラサの町はチベット各地からやってくる巡礼者で溢れます。どこもかしこも祈りに満ちたラサは、この時期ならではの熱気に包まれラサの「聖地」たるゆえんを肌で感じることができるのです。
そんな寒いけれども熱い冬のラサで、二大聖地であるポタラ宮、ジョカン寺(大昭寺)やその周辺を訪れれば、圧倒される数のチベット人巡礼者に囲まれ濃密なチベットを体感することができます。
風の旅行社のツアーではチベット人たちに混ざって聖地を巡礼します。そして今回はラサで「年越し」を迎えるということもあり、それなら更にチベットらしさを感じていただこう!と、特別に「チベット式の年越し」を皆さんに体験していただきました。祈りの聖地、ラサで過ごす大晦日と元旦、そのツアーの様子をレポートいたします。
大晦日ー民家で体験!チベット式の年越し
乾燥ヤク糞を燃料にしたストーブ
チベットには「チベット暦」があり、人々はこの暦に従って新年「ロサール」(2014年は3月2日)をお祝いします。ですので、私たちにとっての大晦日・元旦(西暦)にラサを訪れても、通常は、特別なイベントやお祝いごとに立ち会うことはありません。そこで、今回はチベット人の民家を訪れ家族の協力を得て、特別にチベット式の年越し行事を体験させてもらいました。
「タシデレー!(こんにちは)」と家族の皆さんに迎えられ、家の中の台所スペースにお邪魔します。ヤク糞を燃料にした暖かいストーブを囲んで、バター茶でほっと一息ついた後、お母さんの手料理をいただきました。
バター茶とお茶菓子のチュラ(チーズ)と
ユ(麦菓子)でほっと一息
お手製の「シャムデ(チベット風カレー)」はヤク肉の出汁がきいたさっぱり味で日本人の口にとても合います。その後に出てきたのが、「グトゥ」という水団の煮込みスープ。この「グトゥ」が、チベット暦の12月29日に食べる伝統料理で、水団にちょっとした仕掛けがしてあります。「スープの中の一番大きな水団は最後にとっておいてください。皆さんの来年の運気を占うあるモノが入っていますよ!」と、駐在員とガイドのダジュンが声をかけると、皆さんお椀を覗き込みながら残った水団に興味津々、気をつけて水団を割ってみます。どんな中身&メッセージかというと…、例えば、
「唐辛子:口は災いの元、来年は口(言葉)に気を付けましょう」
「豆:今年はケチな行いが多かったのでは?来年は人に良く振る舞い徳を得ましょう」
「白い石:性格がとても良い人です。来年も良いことが起こるでしょう」などなど。
ちなみに、私の水団の中身は「大根」でしたが、その意味を聞いてみると「来年はもっと清潔にして、毎日ちゃんとお風呂に入りましょう!(チベット人には大根のにおいが臭いようです)」とのこと。なぜか一風変わったメッセージを頂きました。うーん、占いは当たるも八卦でしょうか…。
ヤク肉の出汁がきいたさっぱり味は美味!
占いの「くじ」が入った水団スープ
水団の中のメッセージは?皆さん興味津々
その後出てきたのが、チベットの主食「ツァンパ」。大麦を炒って挽いた粉とバター茶を混ぜ、手でこねて団子状に固めて食べる、日本でいう麦こがしのような食べ物です。シンプルですが香ばしい麦の香りが癖になります。
ガイドのダジュンが台所用品を紹介!
甕の中に保存されたツァンパの粉
バター茶でこねたツァンパ
通常は食べるだけのツァンパですが、大晦日にはこの団子状のツァンパを使って1年の穢れを祓う儀式を行います。ツァンパを体の調子の悪い所、良くなってほしい所に念を込めながら擦りあて、藁の入ったバケツに放り込みます。その後、一家の主が松明(たいまつ)を持って登場!松明を担いで家中を走り回り、家の中の邪気を祓います。そしてその松明の火を使って先ほどのツァンパを燃やし、去年の心身の穢れを祓います。
体をツァンパで擦って穢れを祓い…
藁の入ったバケツにツァンパを放り込みます
お父さんが松明を持って登場!
家中を駆け回り、邪気を祓います
昨年の穢れを落としてすっきりした皆さん!では、新年を伝統衣装に着替えて迎えましょう!家族の人たちに着付けしてもらい、チベットの伝統衣装に着替えます。衣装を着ると、皆さんすっかりチベタンです!
チベットの人たちは、お正月、ご馳走とお酒をたらふく味わい、みんなで歌をうたって家族だんらんの時間を楽しみます。私たちも、チベット対日本の歌合戦で盛り上がりました。
伝統的な歌を披露してくれた
ガイドのダジュンや家族の皆さん
伝統衣装を着て集合写真!皆さんとってもお似合いです
元旦 ーラサで巡礼者と一緒に初詣ー
ラサで拝む初日の出
1月1日、2014年の始まりの朝は、ホテルの屋上で初日の出を拝みました。キリリと寒い冬の朝の空気。幸いにも雲一つ無い快晴!で、山から昇る見事なご来光を拝み元旦を迎えました。
朝一でまず、観光客がほとんど居ないラサの隠れた礼拝の地「サンゲ・ドゥング」で初詣。巨大な岩に千体の仏像が刻まれた磨崖仏の前で五体投地を繰り返す人の群れ、真言が書かれたマニ石が空高く積み上げられたマニ塚の回りをコルラ(*1)する長蛇の列に圧倒されつつ、私たちもその輪の中に入りこみ一緒に参拝しました。
サンゲ・ドゥングの磨崖仏
体験してみよう!お客さん(真ん中)も
チベット人に混ざって五体投地
巡礼者と一緒にマニ車を回してコルラします
「マニ車をちょっと見せて」参拝中なのに
笑顔で応じてくれた気のいいおじさん
ポタラ宮の周りをコルラする巡礼者
その後、前日拝観したポタラ宮の周りを巡礼者と一緒にコルラします。周りの巡礼者を見てみると、20代の若者からおじいちゃんおばあちゃんまで、五体投地をしながらゆっくり歩みを進める人、マニ車(*2)を回しお経を唱えながら歩く人、ただ家族や友人とお喋りしながら歩く人、巡礼の仕方は人それぞれです。丘の上に凛と聳え立つポタラ宮とサン(香)の匂いと読経の響き。その場を共有した者しか感じられない特別な空気を味わい、私たちは聖地ラサでそれぞれに感慨深い元旦の時間を過ごしました。
ジョカン寺には特にものすごい数の巡礼者が溢れる
元旦の日、最後に訪れたのは最も重要な巡礼地の一つジョカン寺(大昭寺)です。通常ですと、私たちが訪れた午後の拝観時間は観光客の入場が優先となるのですが、この日はチベット暦の重要な日に当たったため、午後も引き続きチベット人巡礼者が後を絶ちません。寺院の中は人で埋め尽くされ、言葉に言い表せないような熱気に包まれていました。特に、ご本尊である釈迦牟尼像の前はスシ詰め状態です。あの空気感を言葉でうまく表現できませんが、各地方から家族や村の代表として聖地に赴いたチベット人たちの熱い祈りがこのジョカン寺に集結しているわけです。たとえ敬虔な仏教徒でなくても、人々の祈りが集まったこの聖地の熱気に圧倒されるでしょう。
熱心に巡礼するチベット人の祈る姿、それは清々しく、充足感に満ち、嬉しげな様子さえ感じられました。かつての日本のお伊勢参りもそんな様子だったのかもしれませんね。お伊勢参りが、日本の旅のはじまりだと言います。「祈り」と「旅」は昔から深いつながりがあり、冬のラサの滞在は、ある意味、旅の原点を体験するツアーと言えるかもしれません。季節ごとに違った楽しみ方があるチベットですが、冬のチベットもおススメですよ。
<注釈>
(*1)コルラ:聖地の周りを時計(右)回りに歩き巡礼すること。コルラすることで徳を積むことができるとされる。
(*2)マニ車:チベット人には欠かせない信仰ツール(仏具)。中にお経が入っていて、時計回りに1回回すとお経を1回読んだ功徳が得られるとされる。最近では太陽光で回る自動マニ車も登場している。
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