2017年に「日本で初めてのチベット人監督による劇場公開作」として注目されたソンタルジャ監督の『草原の河』(レビュー記事:チベット人監督で初の劇場公開作品 映画『草原の河』が間もなく公開)から2年。ソンタルジャ監督の最新作『巡礼の約束』が2020年2月8日から東京の岩波ホールを皮切りに大阪、名古屋、福岡、仙台、札幌など全国で順次公開されます。
<『巡礼の約束』ストーリー>
山あいの村で、夫のロルジェ、ロルジェの父と暮らすウォマ。病院である事実を告げられたウォマは、聖地ラサへの五体投地での巡礼旅に、一人で行くと決意する。半年以上もかかる巡礼の旅に、初めは反対していたロルジェだが、ウォマの固い決意にラサ巡礼を受け入れる。しかし妻の決意にはある秘密があった。旅に出た妻を追ってくる夫。そして妻の実家に預けられ、心を閉ざしていた前夫との息子もやってきた。後悔、嫉妬、わだかまりを抱えながらも、少しずつ結びついていく三人。しかし、そんなある日、ウォマがついに倒れてしまう…
<『巡礼の約束』レビュー>
試写を拝見させていただきました。前作『草原の河』に引き続き、美しい自然の景観の中、少ない登場人物で進んでいく骨太の物語です。無駄なセリフは一切ありません。
しかし、少ないセリフ、映像、音からは、監督の強い思いが伝わってきます。
監督のソンタルジャ氏は来日インタビューで「記号化されたチベットから、生身の感情を持つ人間を描こうとした」と語っています。つまり、我々がチベットのラサへ行けば必ず訪れる、チベットで一番神聖な寺・ジョカン寺(大昭寺)の前や、ジョカン寺を取り囲むバルコル街などで目にする、一心不乱に五体投地を繰り返す巡礼者たち。彼らは単なる写真の「被写体」や観光地を彩る「背景」などではなく、それぞれ違った時間を過ごし、背景に喜びも、怒りも、悲しみも、嫉妬も抱えたひとりの人間なのだ、という監督の強烈なメッセージをそこに感じるのです。
ラサにいったことのある方も、これから行ってみたいと思っている方にも、是非見ていただきたい映画です。そんな「生身のチベット」を感じていただきたいと思います。
<主演俳優ヨンジョンジャさんについて>
ところで、話はやや脇道に逸れますが、この映画の主演俳優の名前はヨンジョンジャさんと言います。
プロフィールには「1969年生まれ、世界的に知られるチベット人歌手」となっていますが、最初に読んだときは「ん?誰?」。しかし、よくよくプロフィールを見ると漢字名は容中爾甲(容中尔甲:ロンジョンアルジャ)。出身は四川省のギャロン地方で、代表曲は『高原紅』。「あー! あの人だ!」。すぐにピンときました。
『高原紅』は、私がチベットに駐在していた2000年代の前半ごろ、チベット・ラサのみならず、中国全土で大ヒットした曲で、当時ラサのCD(VCD)ショップに行けば必ず目にし、耳にしました。チベット旅行中、車の中で「ガーオユエンホーン(高原红)、メイリダガーオユエンホーン(美丽的高原红)♪」という歌声がヘビロテしていたという方も多いのでは? 「中国の紅白」的な歌番組に出たり、チベット族の女性アイドルユニットをプロデュースしたりとかなりの活躍をみせていました。私は勝手に「チベットのつんく♂」と名付けていました。
当時は口ヒゲを生やし、ウェーブの掛かったロン毛でチベットの民族衣装の「チュパ」を着ていたので、映画の中の「田舎の朴訥なおっちゃん」の姿に、まったく当時の面影はありませんでした。しかし、あれからすでに20年近くの年月が流れていることを考えるとそれも仕方ないですね。自分自身の見た目も大分変わりました(苦笑)。
2000年代にチベットへ行った方は、この映画を見れば、当時のことを思い出して、ノスタルジーを感じるかもしれません。
ちなみに、ヨンジョンジャ(容中爾甲)の故郷であり、この映画の出発点であるギャロンといえば聖山・四姑娘山(スークーニャン:映画でも何度かその地名が出てくる)が有名で、風の旅行社でも、馬で絶景を楽しむツアーを設定しています。ご興味があればご参加下さい。
チベット人ガイド同行 ギャロン地方を馬で行く
終了ツアー 四姑娘山 ホーストレッキング5日間
チベット人ガイド同行 二泊三日の絶景ホーストレッキングへ
終了ツアー 四姑娘山 騎馬トレックキャラバン7日間