3月21日は春分の日です。桜のつぼみもふくらんで♪何かいいことありそうな予感がする節句の日、シルクロードの遥か西の中央アジア&一部中東地域では春の訪れを祝う『ナウルーズ』というお祭りが催されます。
中央アジアといえばイスラム教徒が多いエリアです。したがって年中行事にもラマダン(断食月)や犠牲祭などイスラム教に関連したものが多く見られます。しかしナウルーズはこの地域に珍しくイスラム教のお祭りではありません。なんとその起源はイスラム教よりも1,000年近く前に成立したゾロアスター教にさかのぼるといわれ、中央アジアや一部中東地域にだけ残る独特なお祭りなのです。
実際、火を神聖なものとしてあがめるゾロアスター教と関係があるのか、今でも田舎に行くと、ナウルーズの日にたき火を飛び越えて邪気をはらうなど、火にまつわる習慣が残っているところがあります。もっともほとんどの地域ではすでにそのような儀式的習慣は失われてしまっていて、日本のお正月のように、「ナウルーズおめでとう」と挨拶をしたり、親戚や友達の家に集まって一緒にご馳走を食べるというのが、主なお祝いの内容になっています。街なかにはナウルーズの何週間も前から飾りつけがされ、当日には大きな町では必ずといっていいほどパレードや民族舞踊ショーが行われます。
騎馬民族の血が湧く!勇壮な伝統騎馬競技クプカリ
中央アジアの色々な国でお祝いされるナウルーズですが、ナウルーズの雰囲気を味わうために風の旅行社がおすすめしているのがウズベキスタンです。お目当てはナウルーズの日に開催される
というイベントです。このイベントは、ウズベキスタンの中でも最も有名で美しい都市サマルカンドから車で1時間、春の息吹を受けて緑に色づいた草原で催される騎馬競技大会です。フェスティバルの名前になっているブズカシというのは、馬に乗って行われる伝統的なスポーツで、ルールはラグビーに似ています。ただここで取り合うのはラグビーボールではなく、頭を切り落としたヤギの胴体・・・。奪ったらゴールになっている井戸のような形のポストに放り込んで1点獲得です。※ブズカシはペルシャ語です。
馬の競り合いと選手達の力技、宙を飛ぶヤギの胴体。どれをとっても迫力満点の競技です。この競技はキルギス、カザフスタンなど近隣諸国にも残っているので、おそらく遊牧騎馬民族が駆け抜けた草原のシルクロードならではの伝統的な競技なのでしょう。神事ではなくスポーツですのでナウルーズの日にしかやらないというわけではないのですが、ナウルーズという特別なお祭りの日だからこそ私たちが見ることができる貴重な伝統競技と言えます。ほかにもこの会場では民族舞踊や民族音楽の演奏なども楽しめ、当日にはサマルカンドの人々やツーリストなど多くの人で賑わいます。(ご注意!騎馬競技クプカリは、毎年直前まで開催日程が決まりません)
夢がかなう!?ウズベキスタンの春の味
また、ナウルーズではこの日のために作られる特別な料理も楽しみです。代表的なものはスマラクという小麦で作ったジャム状の食べ物です。素朴な甘みが魅力のスマラクはまず小麦を発芽させる作業から始めます。3週間くらいかけて発芽させた麦粒を包丁やすりこぎをつかって細かいフレーク状にします。あとは水を加えて鍋で夜通し弱火で煮ます。ペースト状になるまで煮詰まれば完成です。
スマラクは火にかけてから完成するまでに20時間もかかるそうですが、その間ずっと焦げないようにかき混ぜていなければなりません。スマラクを作るのは女性の仕事で、徹夜でこれを作るときはお母さん、おばさん、お嫁さんなど家族の女性達が集まって、交代で手を動かしながら歌を歌ったり、興が乗ってくれば踊りを踊ったりして楽しく過ごすのが慣わしだそうです。もしこのスマラク作りに呼ばれたら、鍋を7回かき混ぜると夢がかなうと言われています。ただしスマラク作りというのは一度参加したら7年連続で参加をし続けないといけないそうですので、夢をかなえるのもそう簡単ではないかもしれません。
このスマラクという料理、春の種まきに由来すると伝えられています。昔々ある農民がいました。春になって麦をまく季節になりましたが、天気が悪くてどうしても蒔くことができませんでした。そうこうしているうちに麦からどんどん芽が出てきてしまいました。しかたがないので奥さんが、芽が出てしまった麦を煮込んだところ、それが甘くておいしかったため農民はその味をどうしても忘れられず、それからというもの毎年春になると同じ料理を作ってくれ、と頼むようになったのだそうです。
というわけで、このスマラクはウズベキスタンの人にとって春の風物詩、スマラクの甘い香りは春の香りということになりました。
日本人の私たちにとっても春が来たという感覚には特別なものがあると思います。遠くシルクロードで結ばれた中央アジアの人々と春の訪れをお祝いしてみるというのも素敵な経験ではないでしょうか。