2008年7月31日〜8月12日 文●八田裕子(東京本社)
ウズベキスタンで一番有名な観光都市・サマルカンド。ユーラシア大陸に大帝国を築いたティムールが都と定めただけあって、市内にはたくさんの美しい建築物が残っています。有名なのはレギスタン広場、グリ・アミール廟、ビビ・ハニム廟など。青いモザイクタイルと金が散りばめられた装飾は、1日かけて目いっぱい見学したらくらくらするほど豪華です。
今回、私たちはサマルカンドでちょっと余分に時間を取りました。お目当てはサマルカンド市内ではなく郊外の町ウルグットです。この町の名を聞いてピンと来る方はかなりのウズベキスタン通でしょう。そう、ウルグットといえばバザールです!
タバコ畑と笑顔に囲まれて 目指すウルグット
サマルカンドを一歩出ると、延々とのどかな田園風景が始まります。サマルカンドだけにいると見失いがちですが、ウズベキスタンの典型的な風景はむしろこっちなんですよね。途中、ザラフシャン山脈がずいぶん近くに見えてきたので車を降りて少し休憩をしました。山の向こうはもうタジキスタンです。畑には大きな葉っぱのすらりとした植物がたくさん植えられていました。てっぺんには花束のように淡い花が集まって咲いています。これ、何だか分かりますか?
答えはタバコだそうです。この辺りはタバコの栽培がとても盛んで、アメリカのタバコ工場もサマルカンド近郊にあるのだそうです。それにしても地平線までタバコです。これじゃあ勝手に栽培しても分からないでしょうね。
タバコ畑の中から一生懸命こちらに向かって手を招いている二人の女性がいました。お客様の一人が「何だろう」と畑を分け入って二人のもとへ向かうと、二人の顔から笑みがこぼれました。旅行者が珍しいのでお話をしたかった様子。抱きしめんばかりの笑顔で何やら質問しています。少し休憩していただけなのに、いつの間にか畑の周りには現地の人や牛やロバ車が集まってきて、写真と質問攻め大会になってしまいました。笑顔、笑顔。誰もが笑顔で接してくれます。とってもフレンドリーな村人たちでした。
ロバ車が増えてきたことでバザールにもうすぐ到着するのだということが分かります。車の外はすでに人の波。ただし都会の人の波と違って、ウルグットの人の波は会釈をすれば倍の笑顔が返ってきます。歯の被せ物はウズベキスタンの田舎では金がおしゃれ。笑顔で輝くまぶしい金歯の間を通って、波に呑み込まれるように私たちはバザールの深部へと向かいました。
ウルグットバザール
このバザールは土・日が賑やかです。私たちが行ったのはちょうど土曜日だったので、押し合い圧し合い大混雑でした。360度にアンテナを向けていないと、硬い荷物に頭をぶつけたり、大八車に足を轢かれたりします。危険・・。バザールの中にはどぎつい茶色い石鹸とか、かわいらしい綿花模様の食器などが売られていたのですが、一番混んでいたところは無事通り抜けるだけで精一杯でした。
バザールの最深部へ。そこには私たちがバザールで一番楽しみにしていたスザニの売り場があるのです。スザニとはウズベキスタンの伝統的な刺繍を施したテーブルクロス大の布のこと。人気のウズベキスタン土産のひとつです。ただし、このウルグットのスザニ売り場には旅人の言い伝えがありました。スザニ売り場に外国人が足を踏み入れるとスザニ妖怪が出る、と・・・。
途中、写真撮ってくれよ!とか、おしん!(当地ではおしんが最も有名な日本人なので)と陽気に声をかけられつつ、私たちはようやく布売り場に到着しました。しかし、売り場には全然スザニがかけられていません。スザニはどこ?とキョロキョロ辺りを見回していた私の前に出ました、スザニ妖怪。広げたスザニの真ん中から首だけ出した姿は一反木綿かぬりかべか。どこから現れたのかいつの間にか先を歩いていたお客様の周りにもスザニ妖怪がわらわらと集まってきています・・・。妖怪なんて言っては失礼かもしれません。スザニを胸の前に目いっぱい広げながら、どこからともなく無数に現れるおばちゃん達。このフットワークは神業級です。これはどう?いくらで買うの?と、かごめかごめのかごの鳥にされたかのようにスザニに取り囲まれます。私が歩けばそれに合わせてスザニの輪も移動します。売り場なき売り場です。逃げ道なく囲まれるとちょっと怖いようですが、おばちゃん達には悪意はないのです。自分の作ったものが売れればいいなぁ。(できればちょっとでもいい値段で・・・) おばちゃん達の胸の内にはそんなささやかな期待と、それにも勝る外国からのお客さんへの興味。だから、買え買え!と強制されるのではなく、日本のどこから来たんだ〜と、質問したり、いつの間にかおばちゃん達の間で日本語の練習が始まったり。商売なのに興味津々の子供たちに囲まれているような何とも不思議な居心地でした。
でも、暑いウルグットのバザールで10分もそんなスザニおばちゃん達に囲まれていたら我々日本人は体力が持ちません。大体スザニは言い値で20ドル〜100ドル。相場はモノによって違いますので、それぞれ納得できる値段で買い物をし、退散することにしました。おばちゃん達は、律儀にもバザールの最深部からバスのところまでスザニを次々に広げながらお見送りをしてくれました。中にはあと5ドルのところで値段が折り合わず、お互いに名残惜しそうな顔をしている方も。人も物も一期一会。バイバーイ、楽しかったよと手を振ってお別れとなりました。
このウルグットのバザール、都市部にはないスザニ売り場、そして田舎ならではの規模の大きさ、そして現地の皆さんの素朴な人当たりの良さで、とってもいい思い出になりました。豪華なサマルカンド市内の観光とセットにすれば、ウズベキスタンの歴史と生活の両方を感じられます。もしサマルカンドで土日に時間が取れたら、ぜひ足を運んでみてください。