2度目のヒマラヤ歩きはラウンドアンナプルナ

風の山人たちのおすすめ!ラウンドアンナプルナエリア  執筆●古谷朋之(東京本社)

ネパールのトレッキングではエベレストに代表されるクーンブ地方、アンナプルナベースキャンプやプーンヒルでお馴染みのアンナプルナ内院地方、それとカトマンズから近いランタン地方が有名です。ネパールのトレッキングはそれぞれに個性があり、「どこが一番いいか」の質問には悩みます。でも、少しネパールトレキングをかじった人や、世界の山歩きを楽しんでいるような方には、「次はランドアンナプルナなんて、いかがですか?」とお勧めすることが多いです。様々なトレッキングの良さを秘めながらも、初心者から上級者までを納得させるルート、それと現地での様々な出会いを考えて幅広い方に適応できる所だからです。(左上の地図をクリックすると大きく表示されます)


マナンから望む
ガンガプルナと氷河



聖地ムクティナートを
訪れる巡礼者たち
(イメージ)

ラウンドアンナプルナ、名前から判るとおり、アンナプルナ連峰をぐるっと取り囲む大きなエリアの総称で、歩いて一周するとゆうに3~4週間はかかります。さすがにそこまで長いお休みが取れない日本人には、ジョムソンから温泉のあるタトパニへ降りる西側ルートと、ベシサハールを起点にトロンパスを越えジョムソンに出る東側ルートに分けてみるのがいいでしょう。いずれのルートでも言えるこの方面の大きな特徴は、「歩き進むたびに、大きな変化が起こる」ことです。それは日ごとに見える山が変わり、そこに暮らす民族が変わり、宗教や習慣などの文化が変わるからなのです。この多様性を内包しながらひとつのトレッキングコースを形成している所は、多分ネパール広しと言えども、そう多くはありません。また、ここは「山の見る」というよりは、「山の懐から覗き込む」と言った方が良いのかも知れません。山の全体を見るという感覚ではなく、山ひとつひとつにじっくりと向き合えるのです。しかも定番のコースに比べてトレッカーも少なく、素朴な村々の人達に出会える点も大きな魅力です。ネパールのトレッキングロッジといえば、最近はピザやラザニアまで出てくるのが当たり前になりつつありますが、まだここはダルバート(ネパール郷土料理)が中心。ロッジといっても、場所によっては土間敷きに土壁の建物で、薄暗い中で暮らす民家にお邪魔するような雰囲気のところも多々あって、彼らの生活をダイレクトに感じることができます。

褐色から緑の世界へ 初心者も大歓迎の西側ルート

では各ルートをご紹介していきましょう。まずは、ネパールトレッキング初心者でも楽しむことができる西側ルート。こちらはトレッキングの出発点になるポカラの街から標高約2,800mのジョムソンへと飛行機で飛ぶことから始まります。アンナプルナ連峰の懐を飛び越えるために大きな山塊が機窓に迫り、気分は否応なく盛り上がってきます。亜熱帯ポカラから到着したジョムソンは、一面荒涼とした褐色の世界。ゴンパやタルチョーも見えて、一気にチベット文化に浸ります。そう、ここはかつて貿易商人としてインドとチベットの交易で潤ったチベット系のタカリ族の住む地域なのです。
西側ルートは、まずジョムソンから東にあるチベット仏教とヒンドゥ教の聖地ムクティナートを目指します。標高約3,800mのムクティナートからは、ニルギリ、ティリッツォピークといった玄人受けする渋い山が一望出来ます。ジョムソンへ戻り、今度はカリ・ガンダキ河沿いに南下していきます。マルファではニルギリ峰の北西稜が鋭く眼下に迫り、北壁と西壁がその稜線と二分するかのように対峙して見えます。ソバで有名なトゥクチェと歩いていると、同じタカリ民族なのに、家がだんだんネワール風の造りになっていたりするのには驚きです。そしてラルジュン近くのソクンの村を左に曲がった瞬間、それまでの赤茶けた大地が一転し、忽然と緑豊かな木々が生えわたる大地へと変わるのです。そして景色は、田園に包まれたやさしいネパールの懐の中へと進み、タトパニでは温泉に入って体を癒し、ポカラへと戻ります。

素朴な山村の生活を垣間見て いざ、トロンパス越えを目指す

時間のあるトレッカーにぜひお勧めなのが、東側ルート。行程が長いのですが、アンナプルナをはじめ数多くのヒマラヤ山群を間近に眺める魅力的なトレイルが続きます。
東側ルートの起点ベシサハールへは、カトマンズから車で向かうのが一般的。点でなく線でつなぐトレッキングの始まりです。ベシサハールから歩き出すと、素朴な民家が点在します。有名なルートだと英語の看板がいっぱい出て、外国人御用達のカフェやロッジが続きますが、ここにあるのは、素朴な「村」そのものの姿。村人の暮らしがそのまま垣間見れるのです。そして高度を上げることに、チベット文化の地域に移り変わっていくのがわかります。標高約2,670mのチャーメの手前、ダラパニを越えて道を大きく西へ曲がると、目の前にはアンナプルナⅡ峰の北東面が、どかんと迫ります。マナンからは、ガンガプルナとアンナプルナⅢ峰が大きく迫り、ガンガプルナからは大きな氷河が目の前に迫るようにたれ落ちています。このダイナミックな山の「見え方」には、他のエリアもかないません。このコース最大の村マナンを過ぎれば、いよいよ最難関でありハイライトの標高 5,416mのトロンパス越に挑みます。無事峠を越えれば、そして聖地ムクティナートを経てカクベニを通り、飛行場のあるジョムソンへ辿り着きます。この、変化に富む長いコースを踏破した後の感慨は、やはりヒマラヤ級かも知れません。

私のつたない文章でこのコースの良さを語るのは限界がありますが、実際に行けば、個々の魅力に取り付かれること間違いありません。古き良きネパール、なんて言うのはおかしいかも知れませんが、そんな雰囲気に駆り立てられるはずです。

※風通信No25(2005年冬号)より転載

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