湖面に映り込む天山山脈
コース名:キルギス天山縦走キャンプトレッキング9日間
2014年6月28日(土)〜7月6日(日)
写真・文●川上 哲朗
久しぶりに帰省した際の父との会話
「次はどこに行くんだ?」
「キルギスに行ってくる」
「キルギス?旅行できるのか?」
「もちろん!」
そんな話も頷けるように、旅行先としてはまだ一般的とは言えないキルギス。しかし、2014年に富岡製糸場などと並び「シルクロード:長安=天山回廊の交易路網」としてユネスコの世界文化遺産に登録され、これから脚光を浴びるであろう“高原のシルクロード”の最新情報をお伝えします。
日本→モスクワ→ビシュケク
成田からモスクワまで10時間。そこから4時間アジアに戻る形でキルギスへ。ちょっと無駄にも思えるようなロングフライトを経て、アエロフロート・ロシア航空はキルギスの首都ビシュケクに到着します。今回私が同行した天山山脈を縦走するトレッキングツアーでは、登山口のカラコルという街までは車で移動することになります。道中面白いのが、途中で検問のない国境を通過すること。橋を渡ると一瞬だけカザフスタンに入国することになるのです。特に入国審査も何もなく、パスポートも出入国カードも必要ありませんが、もしここで事故が起きたらどっちの警察が来るんだろう…など、島国の人間にとっては興味が尽きません。
道の左側にあるポールが国境の目印!
露店で浮き輪やフルーツを売っています
ビシュケク→カラコル
ビシュケクから鉄道が敷かれているバルクチという街を抜けると、いよいよイシククル湖の沿岸です。琵琶湖の9倍もの大きさを誇る広大な湖ですが、旧ソ連時代は外国人の入域が禁止されていたため、「幻の湖」と呼ばれていたそうです。ポプラ並木が続き、ラベンダーやリモニウム、ルピナスなどの花々が咲く様子を車窓から眺めていると、まるで北海道あたりの海沿いを走っているかのような錯覚を覚えます。イシククル湖の東に位置するカラコルは、19世紀頃に移住してきた中国系ムスリムのドンガン人が作った「ドンガンモスク」や、ロシア正教の小さな教会「聖三位一体教会」が見所となっています。他にもスキー場があったりソ連時代の魚雷実験場があったりと、なんとも表情の豊かな田舎町です。名物はアシュランフーという料理。酸っぱ辛いスープに小麦粉と澱粉から作られた2種類の麺が載っているユニークな郷土料理です。おそらく、これも中国系の移住者から伝わったものなのでしょうね。
イシククル湖はまるで海のようです
日本では見かけない野草が沢山咲いていました
道端で食べたアシュランフー
どことなく中国風のドンガンモスク
カラコル→トレッキング
登山口へ行くためには、非常に頑丈そうなオリーブ色の軍事用ジープに乗り換えねばなりません。乗り心地に関してはコメントを控えますが、見た目通り、走破性は抜群。「ここ、登れるの!?」というドロドロの急斜面を何もなかったように越えていくマイティー・ジープには、女性でなくても惚れてしまうこと間違いありません。頼もしい現地山岳ガイドやポーター達と合流し、3泊4日間のトレッキングがスタート。登山の内容については [キルギス]大自然をワイルド&マイルドに楽しむとっておきのトレッキング が詳しいので詳細は省きますが、雄大な景観を独り占めする「貸切感」を存分に楽しむことができたのでした。どんな景色だったのか、スライドショーをご覧ください。
イシククル湖クルーズ→岩絵博物館→ブラナの塔
下山後は、イシククル湖やビシュケクの観光も盛り沢山です。イシククルでは、オプショナルツアーの「イシククル湖ボートクルーズと岩絵野外博物館」に同行しました。クルーズは30分位沖に出たところで停泊し、湖水浴を楽しもうという企画でしたが、ここでアクシデント発生!飛び込んだお客様のメガネが湖底に向けて一直線。“無くしたことよりもイシククル湖を汚してしまったことが悲しい”とお話しされていらっしゃましたが、折しもワールドカップの開催中、それ以降はテレビを見るのも難儀されたことだと思います。これからご旅行される皆様もぜひお気をつけください。
透明度はとても高いです
デッキに転がると風が気持ち良い!
気を取り直して岩絵野外博物館。博物館といっても建物はなく、紀元前に描かれたというヤギやトナカイ、ラクダなどの岩絵が放置されているだけの場所で、残念なことに貴重な岩絵の上に漢字で落書きがされていたりもします。夏場は周辺諸国やキルギス各地から避暑に訪れる人が多いイシククルですが、人気はビーチリゾートに集中しているようで、この博物館にはほとんど人影はありませんでした。地元民から見ると、炎天下の中、必死に岩絵を覗いている観光客はシュールな光景なのかもしれません。
次に訪れたのは「ブラナの塔とバラサグン遺跡」。ここは10世紀から13世紀頃に栄えたイスラム王朝・カラハン朝の首都だったバラサグンの跡だと考えられており、現在では11世紀に造られたモスクのミナレット(尖塔)がポツンと立っています。また、周辺にはキルギス中から集められた「石人」がブラナの塔に向かって立ち並んでいますが、これは6世紀のトルコ系遊牧民族・突厥(とっけつ)の戦士のお墓だと考えられているそうです。シャーマニズムや仏教を信仰していたといわれる彼らですが、まさか21世紀にもなってミナレットを眺めるとは思いもしなかったでしょうね。草葉の陰で一体何を思っているのでしょうか。
ユニークな顔つきの石人
石人はブラナの塔を見つめています
オシュバザール→国立歴史博物館
キルギス滞在最終日は、フライトの時間までビシュケク市内の観光に出かけます。まずは市民の台所・オシュバザールヘ。古くよりシルクロードとして栄えた国だけあり食材はとても豊富で、広大な敷地に米・乳製品・肉・ドライフルーツなどのセクションに分かれたバザールが点在しています。ロシア系やキルギス系、アラブ系や朝鮮系の人など、行き交う人々の顔を見ているだけで異国情緒を感じます。お土産としてはドライフルーツやハチミツが人気を集めていました。
賑わう肉売り場
嗅ぎたばこを売るおばちゃん
最後に立ち寄った国立歴史博物館は、紀元前から続くキルギスの遺物が展示してあり、“旅の復習”にもってこいの場所です。ここは元々「レーニン博物館」という建物だったようですが、現在でも2階には、レーニンやマルクスの大きな銅像が立ち並び、天井には強烈なプロパガンダの絵画が描かれています。ガイコツや戦争などちょっとおどろおどろしいテーマも多いのですが、社会主義時代の雰囲気を垣間見れる貴重な展示物だと思います。
とても立派な建物です
別料金で館内撮影も可能です
全体的に「世界遺産登録おめでとう!」といったムードは全くなく、展示物の情報がキリル文字だけだったり、貴重な遺物をほったらかしにしているなど、まだまだ観光地としての整備は必要であろうことは間違いありません。しかし、そんなちょっと冷めている観光地も含め、自然や歴史、食事や人々など、とにかく不思議な魅力に満ち溢れている国です。今回は他の日本人グループには全く出会いませんでしたが、国を上げて本格的に整備される前に、素のままのキルギスを味わってみてはいかがでしょうか。
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