朝四時、起こされる。
クンデンと呼ばれる、チャンから作られたチベットの正月料理を食べるためだ。
起こされたときは、「ああやっぱり僕も起こされるのかぁ」と観念したものの、やはり眠い。 眠い上にチュラ(チベットチーズ)やチャン(チベットのどぶろく酒)などから作られたクンデンを食べないといけない。 これがダワ・ツェリン(泰男)の村での習慣になっているからだ。 泰男のお姉さんは夜中に起きて、「今年一番初めの水」を近くの川から取ってきてこのクンデンを作ったようだ。 彼女の労力に報いるためにも、そしてやはりこれは何よりもめでたいものなので頂かないわけにはいかない。
(クンデン)
半分ほど頂いて、酔ってきたのか再び眠くなってきたのか分からないまま、また寝てしまった。
今日2月7日は、チベット暦の土鼠年の元旦である。 僕は風ガイドの泰男の実家に来ている。 チベットの田舎でロ・サールを過ごすのは実は初めてだ。
朝九時ごろ目が醒める。 そして、僕は泰男の弟たちに連れられて、家畜たちに新年の挨拶に行く。 馬や羊、そしてヤクたちの額の部分にツァンパとチャンを祈りの言葉とともにまぶしかける。 そして、ヤクの角の先っぽにもバターをペタッとはりつける。 「新年おめでとう」という祝いの気持ちを動物たちにも伝えると同時に、「今年も元気によく働いておくれ」という気持ちもあるのだろう。 しかし寒い中に頭からチャンをかけられたヤクは「いきなりなにすんねん」とばかりに驚いた表情をしていた。
(ヤクに「あけましておめでとう」)
午後は、恒例の新年挨拶回りである。
民族衣装のチュパを来た近所の人たちがお互い家々を訪れ合う。 ドソチェマルと呼ばれる、今年の豊作と幸福を願う飾り物を各々両手で抱えながら、お互いにその飾り物に盛られた麦を手に少しとって空中に三度撒く。 祈りの儀式である。 「三度」というのは意味がある。 神様仏様へ、そして我々人間など地上に住む生きとし生けるものへ、そして地下や水中に棲んでいると言われる、龍神など霊的なものたちへ、捧げるのである。
(ドソチェマルの麦を撒いて祈りの儀式)
お祈りの後はもうお決まりである。
飲んで歌って、歌って飲んでの宴会。 自分の目の前で誰かに歌われたら最後。 お椀に盛られたチャンを一気飲みしなければならない。 僕は、「ああ、またこの瞬間が来てしまったかー」と思ったが、泰男のお父さんが欝気味の表情をしていた僕に気づいたのか、気をきかせてくれて少し飲んだだけで助けてくれた。 おとうさんありがとう。
(彼らに歌われたらもうおしまい。 目の前に座っている人はチャンを一気しなければならない。 右から二人目は泰男の弟)
それにしても泰男のお父さん、お母さんはなんかとてもいい人であった。 「いい人」というとあまりにも月並みな言い方であるが、「この二人をもって泰男ありき」か、と思わせるお二人である。 泰男のことを知らないみなさんは何言っているのだろう、と思われるかもしれないが、とにかく優しいながらも気丈夫な感じのする、何か大きなものに触れたような印象を我々に与えるようなお父さん、お母さんである。
というと、チベットのラマみたいな印象を持つかもしれないが、確かに同じような匂いがした。
Daisuke Murakami
2月14日
(ラサの)天気 快晴
(ラサの)気温 −2〜14度
(ラサでの)服装 ジャンパー、コート、長ズボンが一般的です。日焼け対策は必須。 空気も非常に乾燥しています。