『アジア・ヨーロッパ自由旅 フーテンの寅ベラー』を頂いて

「どうしていましたか? 大変だったでしょう。電話に出てくれてほっとしましたよ」
「何とかやっています」
「まだ、大変でしょうが頑張ってください」

年末、Aさんからお電話を頂いた。ありがたい。人の何気ない思いやりが身に沁みる。

Aさんは弊社の初代オーナーだった比田井博の知人だ。奥様がネパールの学校を支援されていて、支援者を連れて年末に何回もネパールへ行っていただいた。2001年6月の王宮乱射事件とその年の11月の緊急事態宣言以降のネパールの政治的混乱が原因で、ネパールへの行くのを断念されたと記憶している。

Aさんは、電話の向こうで少し照れながらおっしゃった。「実は、本を出版しました。今までに行った海外の旅の思い出をあれこれ書いてみたんです。贈りますから読んでみてください」。翌々日に『アジア・ヨーロッパ自由旅 フーテンの寅ベラー』(はぜお寅次郎著、エコハ出版)が届いた。スマートで上品なAさんのイメージからすると「あれ?」という印象だったが、「尊敬する人は、松尾芭蕉とフーテンの寅さん」と躊躇なくお答えになるそうで、私の勝手な思い込みだったようだ。

Aさんは、現在70歳を超えられた。決してマニアックな旅行でもないしバックパッカーかでもない。パッケージツアーも使うし、一人で航空券とホテルだけ自分で予約して出かけたりもする。好奇心旺盛に街を歩きハプニングや人との出会いを楽しむ方だ。但し、その回数の多さには脱帽する。

Aさんが、最初にネパールを訪れたのは1993年だったとこの本で改めて知った。カトマンズの騒然としたカオスの世界にすっかり疲れてしまって途中で切り上げて日本に帰ろうとしたが、弊社のカトマンズ事務所で“ポカラへ行ってヒマラヤを見ませんか”と勧められて、渋々ではあったが、ポカラとダンプスの「つきのいえ」に行かれたそうだ。そこでヒマラヤの美しさとネパールの人たちの優しさに接し、すっかりネパールにはまってしまったという。

読んでいてつい笑ってしまうのは、カトマンズの空港で歩いて建屋までいって10ドル払ってVISAを取得したことや、当時のカトマンズの町中のゴミの山や何頭もの牛、メーター類が壊れている上に窓が閉まらず、シートが破れて綿が出てしまっているボロボロのタクシー。私の初めてのネパール旅行も1988年の年末だから、Aさんの驚きが手に取るようにわかることや、あれこれ疑問に思って現地ガイド(Aさんは、現地の添乗員と表記)に聞くと、その答えが、まるで私が、当時、聞いたのと全く同じだということだ。今から考えれば、ガイドの答えが本当かどうかは怪しいが、真偽のほどはどうでもよかったと思う。

Aさんは、コロナで中断してしまったが、まだまだ旅を続けたいとおっしゃる。特にポルトガルやギリシャを挙げられている。旅の一番の魅力は“思いがけない出会いや発見だ”とこの本を読ませていただいて改めて感じた。旅を支えるのは好奇心。Aさんの好奇心は益々旺盛だ。社会的な諸問題にも造詣の深い方だが、「街を歩き『ここだ!』と直感したレストランに入って、それが素晴らしかったら最高」というフーテンの寅さんよろしく、少々行き当たりばったりな旅を楽しんでおられる。羨ましい限りである。旅つくりの原点もそこにあると感じ、この本の贈呈に感謝したい。

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