あの建屋が80mほど先に見えている。「もう東京には住めなくなるのだろうか?」テレビに映し出された水素爆発を見て、あの時はそういう思いになった。子供たちを長野県の生家に避難させたりもした。あれから12年9か月、まだ、事前に申請し許可された団体しか見学できずツアーは組めないが、防御服もマスクも何もつけないで、福島第一原子力発電所内が見学できるようになったのである。
すでに12万人以上が見学しているとのことだが、12月7日、トラベル懇話会の一泊二日の国内研修で、①東京電力廃炉資料館 ②福島第一原子力発電所 ③東日本大震災・原子力災害伝承館 ④請戸小学校などを見学した。特に、福島第一原子力発電所は、あの水素爆発を起こした建屋の目の前まで行った。
見学するには、免許証などの身分証明書の提示が必須。自由見学は①と②は許されない。飲食物、携帯電話、カメラなどは一切持ち込み不可。建屋の前にいる時間は15分程度。それで浴びる全放射線量は0.1ミリシーベルト(各自線量計をつけて計測)でレントゲン1回程度の量だから身体への影響はないと説明された。ただ、建屋前ではバスについている線量計が1.0ミリシーベルトからあっという間に30ミリシーベルトを越え見学者を驚かせた。
説明のほとんどは、当時のテレビ解説を復讐するような内容で目新しいものはなかったが、ALPS(他核種除去設備)でも全く除去できないトリチウムを含んだ処理水の放水について詳しく説明を受けた。東京電力がこの見学を実施している眼目は、廃炉作業が徐々にではあるが進んでいることと、このALPS処理水の放出が安全であり、風評被害を防止したいということにあるようだ。
ALPS処理水の放出について説明された内容は㋐トリチウムを含んだ処理水は、世界のどの原発からも放出されている。㋑フランスの原発が放出しているトリチウムを含んだ処理水の濃度は東京電力が今回放出するものより遥かに濃度が高い。㋒中国の処理水もの東京電力よりはるかに濃度が高い。㋓今回の福島第一原子力発電所が放出した処理水は、3.11以前に同原発が放出していた処理水と同じ濃度で世界に比して極めて低い。この説明が絶対的な安全性を保証しているとは言えないのかもしれないが、かなり処理水についての国際世論には政治的な色がついていることは確かだろう。
ALPS処理をすればフィルターなどの汚染物質が出る。そのほかにも、防御服は使い捨ての汚染物質だ。これらを保管する中間貯蔵施設は、すべて福島第一原子力発電所内に設けることになっており、最終処理はどうするかは決まっていない。
また、およそ1200人の東京電力の人間が福島第一原子力発電所で働いており、協力企業を入れると膨大な人間が働いている。廃炉作業にかかる費用は総額年間約2000億円。すべて東電が利益の中から負担していると質問に答えていたが、結局、私たちが払う電気料金で賄われているともいえる。
地球温暖化の議論が白熱する中で、再び原発稼働の声が高まっている。世界は、3.11を再び起こさない知恵を持っていると信じたい。