スペイン出張

スペインの夕食は夜の8時半くらいから始まる。ならば昼は何時に食べるのかと尋ねたら、14時過ぎ。だからといってオフィスアワーは、日本と殆ど変わらないというから驚いてしまう。しかし、この方が食時間隔は均等に6時間くらいになるから、体にはいいのかもしれない。コロナ中に、レストランの営業時間制限ができて、ランチも夕食も2時間ほど早まったが、コロナが収束したらすぐ元に戻ってしまったそうだ。肌に染み付いた習慣は簡単には変わらないということだ。

今回は、マドリードと古都のトレドを観光し、3時間ほど列車に乗ってサンティアゴ・デ・コンポステーラへと脚を延ばした。マドリードではプラド美術館でベラスケスの「ラス・メニーナス」、「三美神」ゴヤの「裸のマハ」、「着衣のマハ」、14枚の「黒い絵」を鑑賞し、トレドでは、展望台から全景を眺望し、サント・トメ教会でこの地を愛したエル・グレコの「オルガス伯の埋葬」を観た。ちょうど原田マハの『リボルバー』(幻冬舎文庫)を読んでいたので「おお! これか」と思わず声が出てしまった。サンティアゴ・デ・コンポステーラは、人口約9万人だが、内3万人が学生だ。古い街に若い人が集っている。とてもいいことだ。大聖堂を中心に石造りの建物に挟まれた4本の通りが伸び、古い街並みが続いている。坂は多いが心地よく散策ができた。

イタリアの街が、赤茶色の暖色を基調としたイメージなら、スペインの街は、グレーを基調としている分、どこか無機質な感じすらしてしまう。ラテンのイメージがいくら強烈ではあっても、何でもかんでも一括りにするのは間違いだと思ったが、やっぱりラテンだ。オフィスアワーが終わると通りは人で溢れ賑やかになる。夕食まで時間が空くので、広場にせり出したレストランのテーブルに陣取り、大勢の人々がゆったりと座りながら談笑している。こういう時間は日本の社会にはない。仕事が終わったら直ぐに夕食をとるか帰宅するのが通例だ。忙しないのが日本人。仕事が終わって夕食までの3時間ほどを楽しむのがスペイン人。コロナ収束後、この習慣にすぐに戻った理由がわかる。私も真似をして、広場にせり出したカフェで、外のテーブル席に一人座って30分ほどビールを飲んだが、こういう時間をまさに最上の時間というのだろう。

サンティアゴ・デ・コンポステーラのサンティアゴとは、キリスト教12使徒の一人、聖ヤコブのスペイン語読みだ。9世紀に聖ヤコブの墓がこの地で見つかり、イスラエル、ローマと並ぶ世界三大キリスト教聖地となった。今でも、世界中から巡礼者がやってくる。歩きだと100km以上、自転車なら200km以上巡礼路をたどってサンティアゴ・デ・コンポステーラにゴールしないとコンポステーラ(巡礼証明書)はもらえない。昨年は約45万人がコンポステーラの発行を受けている。そのうち日本人はおよそ1,400人。アジアの中で一番多いのは韓国人でトップテンに入っているそうだ。キリスト教徒が多い韓国ならではといえよう。

巡礼の終着地は、もちろん大聖堂である。この大聖堂は、かつては宿泊もできたそうだが、北門から入り聖ヤコブを祭った祭壇でミサに参加し、聖ヤコブの遺骨が入った銀の棺を拝むのが最大の目的だそうだ。暗黒の中世を抜け、ルネッサンスから近代へ。2度の世界大戦を乗り越えて今がある。石造りの街は、その空気をずっと変わらず吸い込んで多くを伝えてきた。変わらないことは時として桎梏になるが、木の文化のため変わりすぎるきらいがある日本からすると羨ましい限りである。

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