菊池寛実記念 智美術館は、神谷町から歩いておよそ5分、虎ノ門の閑静な高台にある。現代陶芸を取集していた菊池智のコレクションを母体に2003年に開館した。6/23の日曜日に初めて行ってみた。企画展「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」の前期がこの日で終わるからだ。
何故そんな美術館に行ったかというと「おとなのEテレタイムマシーン」というNHKの番組で「私と多八木一夫」と題して司馬遼太郎への45分のインタビューを見たからだ。この番組は、1980年代に放送した日曜美術館やN響コンサート、日本の話芸、シリーズ授業などを再放している。例えば、「私と黒田清輝」は白洲正子、「私とフェルメール」は谷川俊太郎、「シリーズ授業大江健三郎」、「シリーズ授業井上ひさし」などである。とにかく、インタビューに答えるゲストや授業者が凄い。今まで聞いたことのない彼らの肉声が聴けて新しい発見がある。白洲正子や大江健三郎がグッと近しく感じられる。だから、気に入って見ている。
私のこの日の目的は、「おとなのEテレタイムマシーン」で見た、八木一夫の《ザムザ氏の散歩》という陶芸を観ることだった。かといって私に前衛芸術を観る素養など全くない。ただ、あの不思議な形は何だ?という好奇心と、そんなに司馬遼太郎がいいというなら観てみたいという衝動しかなかった。実物を見てみたら無性に感動した。確かにリズミカルに漫画チックに歩いていた。回転して前に進んでいるという評もあるが、私には、ふんぞり返って細い短な蛸の吸盤のような足を小刻みに半ば回転させて歩いるように見えた。全体がタンバリンのようなフォルムをしているから、回転して前に進むように見えるのだろう。触れられないから質感は今一つわかないが、ガラス越しに土器のような質感を感じた。
先ほど「そんな美術館」などと書いてしまったが、緑に囲まれ、上質感溢れる素晴らしい美術館である。八木一夫に興味はなくとも、あの展示室で何かを訴えかけるようなアートが並んだ空間で一時を過ごすだけでもお薦めだ。
7/5からは、「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」の後期の企画展がある。お時間があったら行かれてはどうか。後悔はしないと思う。