ゆけむりの宿 美湾荘

トラベル懇話会の夏季セミナーで、7月5日から1泊2日で石川県七尾市の和倉温泉へ視察に行ってきた。とはいっても今年元旦に起きた能登半島地震で被災し、まだ殆どの旅館で営業が再開できておらず、金沢に泊まってバスで片道90分かけて往復することになった。

現地にいられたのは2時間ほどだが、「ゆけむりの宿 美湾荘」のご協力を得て、被災した館の内部を見せていただいた。一見、補修すればすぐにも営業できそうに見えるが、新耐震基準(1981年5月31日)以前の建物は傾いてしまい、取り壊して再建することにしたそうだ。取り壊しに1年以上、再建に約2年、完全営業再開にはまだ3年以上かかる。

震度7の激震が38秒間続いた。その揺れたるや尋常ではなかったが、館はしっかり立ち続けた。「揺れが収まったところで、旅館の従業員が最上階の8階まで駆け上がり、開かなくなったドアをバールでこじ開けたりしながら、お客様全員を救出しました。私の膝は人工関節ですが、2回も8階まで往復しましたよ。もう無我夢中、火事場のなんとかって本当にあるんですね」とこの日、館内をご案内いただいた72歳の多田計介美湾荘会長は淡々とお話くださった。

翌日7/6は、多田会長のご令嬢・多田直未社長が金沢までお越しになりご講演いただいた。若干42歳。大変ポジティブで明るい。控えめだが言葉に力があり自信に満ちていた。「すぐに大津波警報が出されましたので一旦は避難所にお連れしましたが、避難所は旅館の宿泊客まで想定しておらず大混乱になっていました。このまま一晩、お客様がここで過ごすのは難しいと判断し、お客様のご希望をお聞きしたうえで美湾荘にお戻しし、おにぎりと少々のおかずを用意して、車中泊などで一晩過ごしていただきました。翌日、明るくなってから、車のお客様は順次ご帰宅いただき、電車のお客様はバスで金沢までお送りしました。最後にお帰りになるお客様がバスの中から、声は聞こえませんでしたがその口が『ありがとうございました。私たちは帰りますが、頑張ってください』と言ってくださっているのが分かり、思わず安堵し涙してしまいました。和倉温泉全体で一人の死亡者も怪我人も出しませんでした。これは末代までの自慢です」。

和倉温泉は開湯から1,200年以上が経つ。美湾荘も200年以上の歴史を持つが、その歴史に胡坐をかくことなく、おもてなしで全国に名を馳せた温泉地だ。ところが、コロナ禍をようやく脱したと思ったらこの仕打ちだ。「どこまでいじめるんや」と、直未社長も流石にその運命を恨んだそうだが、お客様に励まされ、不幸中の幸いをいっぱい見つけてなんとか半年やってこられたと明るくおっしゃっていた。しかも「オリンピックの年に社長交代や」という現会長の一言で、2021年に社長に就任。いやはや、すごい父娘である。

旅行会社は、こうした被災地応援をその都度行ってきた。弊社は力不足だが、今回は大手旅行会社も同行しており旅行業界をあげて応援していく。現地にできるだけ大勢の方に足を運んでいただく。私たちができることは、これに尽きる。

シェアする

コメントを残す

※メールアドレスが公開されることはありません。