旧交を温める

滅多にないことだが、6月17日、このコラムにコメントが付いた。なんと小学校の同年生のA君からだった。私が卒業した小学校と中学校は、道を隔てて向かい合って建っており、9年間メンバーが変わらなかった。4年生と中学生になる時に“クラス替え”があったが、彼とは一緒のクラスになったことはない。クラスが違えば疎遠になるものだ。

彼の印象は、むしろ、保育園のころに遡る。私はA君を大将とするグループに対抗する別のグループに属していたが、A君は、体も大きく運動神経も群を抜いていたので、周囲は畏敬の念で接していた。

早速、連絡を取って会いに行った。中学校を卒業して以来だから50年振りになる。顔を見た瞬間に「おお!」と声が出て握手を交わした。今は、三田の慶應義塾大学の正門と通り一つ隔てて正面にあるビルで貸室業をしているというので、そのビルを訪ねた。こんなビルのオーナーなのか? と少々不思議な感じがした。昔のA君とはイメージが重ならなかったからだ。早速、彼の行きつけの焼鳥屋で一杯やりながら、まずは中学校卒業以来の互いの自己史をあれこれ話した。

彼が言うには、「中学校までは、まったく勉強しないで遊んでばかりいた。それでも原君のようにI高校に進みたかったが、中3で高校進学を迫られたときにはもう遅かった。だから工業高校に行った。工業高校の授業は中学レベルだったが、数学だけは大学受験レベルだったので、一念発起してC工業大学に進み東京へ出てきた。原君と違って工作機械の設計などをする機械屋だったから、今日は、話が合うか心配だった。かみさんの父親にある会社を任され経営もしたが、今は、貸室業や不動産業などをしている。それも、一段落し手が離れそうだから、そろそろ旅がしたくなった。偶然、ある大手旅行会社の役員とも知り合い、ペルー、アルゼンチン、ブラジルに行った。今度は、是非、ネパールへ行きたいがどうか」ざっとこんな話だった。努力し、チャンスを上手くつかんで成功し、今は、じっくり残りの人生を楽しみたいという気持ちの余裕が滲み出ていた。

小中学校の同級生に会っても、同級会で旧交を温めるのが精一杯である。A君とは旅で未来が繋がりそうである。会社を経営していたという点でも共通項がある。歳を重ねるのも満更ではない。時にはこういう嬉しいこともある。慌てず、ゆっくりお付き合いをお願いしたいと思う。

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