民博友の会講演会「モンゴルとSDGs」を聴いて(その1)

まだ、コロナ禍にあった2022年の4月2日、第523回国立民族博物館(民博)友の会講演会「モンゴルとSDGs」が開催された。先週、これをYouTubeで漸く観ることができた。前半は、同博物館名誉教授の小長谷由紀さんが40分ほどモンゴルに関して話をされ、後半は、小長谷さんと総合地球環境学研究所(地球研)の所長の山極壽一(やまぎわじゅいち)との対談という内容だ。

小長谷さんは、地球研が行った“遊牧における家畜数と草高、草の種類の関係”の幾つかの研究に言及された。遊牧をしなければ草高は高くなるが、強い草が勝ち、草の種類は減ってしまって多様性が失われる。逆に遊牧を行えば草高は低くなるが、種類は増え多様性が維持される。定住して放牧すると、草の生産性が落ちて過放牧になり、草高も低く種類も減ってしまう。

この話は、里山と人々の暮らしの関係に似ている。里山を利用する人がいなくなって人の手が入らなくなれば、里山でも強い草木が勝ち多様性が失われる。かつては美しかった里山が、今は樹木の間を竹が繁茂しボサボサ頭のようになってしまった山を、東京近郊でも時々みる。あのままでは、やがて山全体が崩れていく。

現在、モンゴルの人口は、約330万人、このうち、150万人以上がウランバートルに住む。遊牧民は、12~13%で約40万人ほどだが、遊牧生活を引き継ぐ次の世代が激減しており年々減っている。日本の高度経済成長期に、農村から若者が都会へと流出していった現象と同じである。

小長谷さんは、かつては集中的インフラしかなかったから、遊牧民はその恩恵に与かれなかったが、今は、ソーラーバッテリーや通信が発達しインフラが分散化したことで新・遊牧生活への展望が開けた、とおっしゃる。果たして、それで遊牧民の減少に歯止めがかかるのだろうか。

遊牧文化は、モンゴル人のアイデンティティであり誇りでもある。小長谷さんは、たとえ遊牧をしなくなって都会に住んでも、遊牧民としての精神性・スピリットは残る、ともおっしゃる。

遊牧そのものがSDGsであり、今更、外部から云々言われる筋合はない、とモンゴル人は思っているかもしれない。ならば、何とか遊牧生活と遊牧文化を残す手立てをモンゴル人自身の手で考えてほしい。残された時間は少ない。(つづく)

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