添乗報告記●大峯・弥山トレックと天河神社と洞川温泉 3日間(2023年5月)

ツアー名 ● 山伏ガイド・上野勝美さんと歩く大峰奥駈道入門2
【現地集合】<温泉旅館&山小屋利用>大峯・弥山トレックと天河神社と洞川温泉 3日間

2023年5月26日(金)~5月28日(日)
文・写真 ● 川崎洋一(大阪支店)

旅の始まり

旅の始まりは、下市口駅。吉野の入口に位置する近鉄の小さな駅。吉野川上流に位置する上市と並んで、吉野地方と大和盆地・大阪とを結ぶ中継地、材木の集積地、として発展してきました。中世には2と7のつく日に市が立つという繁栄ぶりでした。バスで最初に渡る千石橋という名前や、そこからしばらく続く街並みにその面影を知ることができるでしょう。

下市口駅で集合した後は、路線バスで洞川温泉をめざします。1時間半ほどの距離ですが、ルートは、トンネルで便利になった最短距離ではなく、その途中の山間部に残る集落を結んでいいきます。そこが路線バスのいいところ。時には「えーこのバスで行けるかな?」という道も。路線バスなので車窓からしか見られませんが、丹生川上神社下社の前を通過します。丹生川上神社は神武天皇が戦勝祈願をしたとか、天武天皇によって最初の社殿が建てられたとか、名神大社にも、平安末期の二十二社にも名を連ねるほどの歴史があり、由緒正しい神社で、歴代天皇から雨乞いの祈祷が100回近くも行われた記録があるのですが、応仁の乱以後その所在が分からなくなり明治以降に3社(下社、上社、中社)が並びたちその正当性を争う論争を繰り広げることになったという珍しい神社。雨ごいの時には黒い馬を、雨を止めてほしいときには白い馬を献上していたそうです。

目的の洞川温泉の街は、役行者が開いた修験道発祥の地・山上ヶ岳の麓にあり、修験者の拠点として開けた町で、多くの宿も修験者の宿として軒を連ねています。下市町からでもいくつものトンネルが開通するまでは山を登っては下り、下っては上りの山道を延々と行かねばならない最奥の地でした。今も街中の道は細く、大型バスの通行は一苦労。私たちも修験者と同様ここで1泊してから奥駈道上の弥山をめざします。まだ日の高いうちに宿に到着しますので、ぶらっとしていただく時間があります。

洞川温泉を流れる山上川

洞川温泉を流れる山上川

洞川温泉での過ごし方

たとえば、トロッコ列車で登っていく鍾乳洞「面不動鍾乳洞」は、内部の鍾乳石が照明でカラフルにライトアップされて、ちょっといい感じです。トロッコ列車もたいした距離ではないので明日からのトレッキングに備えて歩いて行ってもいいでしょう。(宿から徒歩10分程度)また、蟷螂の窟(とうろうのいわや)は、宿から20分ほど歩きますが、役行者が修行したとも言われる洞窟で、いかにも修行の地という雰囲気が味わえます。中はなかりひんやりしてますので夏でも1枚羽織っていきましょう。道中には洞川エコミュージアムセンターがあり、小さいながらも、大峯山周辺の動植物や修験のことが紹介されています。宿から徒歩3分のところに、役行者が水行したといわれる格式の高い龍泉寺というお寺もあり、滝行ができる場所があります。
尚、山に囲まれた洞川温泉は日が暮れるのも早いですが、修験の町ですので夜は早いです。

洞川トロッコ 大峯の山面不動へのトロッコと背景は山上ヶ岳へ続く大峯の山
洞川 面不動鍾乳洞ライドアップされ時間に連れて色が変わっていく面不動鍾乳洞


洞川 蟷螂の岩屋役行者も修行したという蟷螂(とうろう)の岩屋入口
ド洞川 蟷螂の岩屋夏でも冷気が漂ういかにも修行の地にふさわしい洞窟


洞川 龍泉寺役行者ゆかりの龍泉寺
洞川 龍泉寺滝行ができる


いざ、大峯へ

朝、旅館で朝食を終え、9時前にはジャンボタクシーで出発します。この日から山伏ガイドの上野勝美さんも合流してくれました。

まずは登山口まで車移動です。天川村を流れる天ノ川の上流にあたる川迫川を遡っていきます。(天ノ川は十津川となり、熊野川となって太平洋に注ぎます)この道が『酷道』と評されるなかなかの狭い道。熟練のドライバーさんでも時間が読めない、どの辺で対向車が来るかで時間が変わってくるとのこと。5月なら朝日に萌える新緑の、11月なら紅葉の山を眺めながらのドライブになります。

車は狭い川に沿ってぐんぐん山奥へと入っていきます。今回は朝早くは山から戻ってくる車は少ないため、対向車も幸い、2,3台で済みました。2時間後、行者環トンネル西口にある弥山登山口で車を下車。ここからいよいよトレッキング開始です。

まずは広い空間を見つけて準備体操。そこから沢沿いを少し行くと、尾根まで急坂が続きます。5月下旬でしたがいくつかシャクナゲの花が残っていました。木肌がつるつるで触るとひんやりするヒメシャラを思われる樹木も散見でき、花探し、木探しに急坂の苦しさを紛らわせながら登っていきます。

弥山 奥駈道出合までの登りにて

弥山 奥駈道出合までの登りにて


ヒメシャラヒメシャラ
ヤマツツジヤマツツジ?
シャクナゲシャクナゲ


服を脱いでの温度調整や何度かの水分補給を経て尾根筋に到着。奥駈道出合。枯れ木の中の道標にほっこり。シロヤシオでしょうか、白い花をいっぱい咲かせた木々が出迎えてくれました。ここで小休止。ここからしばらくは小さなアップダウンはあるものの歩きやすいブナの原生林の中を進みます。

奥駈道出合にある道標奥駈道出合にある道標
シロヤシオシロヤシオ


稜線の道

稜線にある2つの行場「石休の宿」「聖宝の宿」
頭上に倒木、足元に苔が目につきだしたらそこは弁天の森(弥山山頂に天河弁財天の奥宮があるからでしょうか?)このあたりに、奥駈道75靡(なびき=吉野から熊野までの大峯修験道上にある75か所の行場)の1つ「56番目の石休の宿(いしやすみのしゅく)」があります。少しいくと、天気がよければ弥山山頂が一瞬見えてきます。再び樹林帯を進んでいくと、平安時代前期の修験道中興の祖と言われる理源大師の像が現れます。この像に触ると雨になるという言い伝えがあり、注意です(笑)。ここは「55番目の靡 講婆世宿(こうばせのしゅく)または聖宝(しょうぼう)の宿」があった場所。聖宝=理源大師のこと。
山伏ガイドの上野さんがここでほら貝とともにお祈りをしてくれました。

ブナの原生林を行く

ブナの原生林を行く

弁天の森をゆく弁天の森をゆく
聖宝の宿で行を行う・山伏ガイド上野さん聖宝の宿で行を行う山伏・上野さん


いよいよ山頂へ

さて、ここを過ぎると、かつては急登の道があり、「聖宝八丁」と呼ばれた難所でした。今はジグザグの山道ができて登りやすくなっています。とはいえ、山頂手前に続く急な坂に変わりはありません。木製の階段が見えてきたら、弥山小屋はもう少しです。がんばりましょう。

聖宝八丁の登坂

聖宝八丁の登坂

ついに弥山小屋到着。山頂もすぐそこ。山頂には、芸能の神様として最近人気の天河弁財天の奥社が、谷向こうの八経ヶ岳を横目で眺めるように鎮座しています。弥山山頂は「54番目の靡」。

弥山山頂の天河弁財天奥宮弥山山頂の天河弁財天奥宮
弥山山頂から見た八経ヶ岳弥山山頂から見た八経ヶ岳


八経ヶ岳へ

奥宮の前で一息ついて空の様子を見守っていましたが、向いの近畿最高峰八経ヶ岳は雲の中にうっすら姿を見える程度。明日の朝ももうワンチャンスありますが、天気が崩れる可能性もあるということで全員で八経ヶ岳までチャレンジ。往復約1時間の下っての上り返しです。途中に「53番目の頂仙ヶ岳(遥拝)」と「52番目の古今の宿」の2か所の行場が人知れずあります。碑伝(ひで=修験者たちが自分たちの修行の証として行場に収めるお札)が置かれているのを見逃さなければわかります。53番目は木立の間に見える頂仙ヶ岳を遠くから拝む行場のようです。

頂仙岳の遥拝所頂仙岳(ちょうせんだけ)の遥拝所
古今の宿古今の宿(ふるいまのしゅく)


そしてついに八経ヶ岳「51番目の靡」に到達。奥駈道を開いた役行者が八巻のお経を埋納したという山。あいにく視界は熊野(南)方面は雲に隠れており、山頂の枯木立を眺め、碑伝にまつわるあれこれを聞きながら雲の去るのを待つも、断念。夕食めざして小屋に引き返しました。

八経ヶ岳山頂で碑伝を読む上野さん

八経ヶ岳山頂で碑伝を読む上野さん

快適な山小屋

弥山小屋は、天川村が経営する2階建てのロッジ。コロナ中も人数制限をしながらも経営を続けてこられたありがたい山小屋です。スタッフも親切で、シャワーこそないものの、布団一式があり、トイレも清潔で助かります。夕食こそ簡素でしたがビールも売っていて、一杯飲まないと寝られない方にはもってこい。山小屋ですから夜の消灯は早いですが、天気がよければ夜の星も格別だったよう。(私は不覚にも早々に寝入ってしまいました(恥)

弥山山頂に立つ弥山小屋(外観)弥山山頂に立つ弥山小屋(外観)
弥山小屋(室内)1階の大部屋は大きな二段ベッド弥山小屋(室内)1階の大部屋は大きな二段ベッド
ビールもあります!(弥山小屋)ビールもあります!(弥山小屋)


神秘の朝

翌朝、雲の残った空、しかし、昨日より雲の位置は高く、展望が期待できそう。そして下を望むと雲海が広がっています。ガイドの上野さんは山伏の装束に身を包みその雲海を操るかのようにほら貝を吹いています。

朝、弥山山頂で雲海に向かいほら貝を吹く上野さん

朝、弥山山頂で雲海に向かいほら貝を吹く上野さん

再び有志で八経ヶ岳へ。今日の八経ヶ岳からは!明星ヶ岳、釈迦ヶ岳まで見渡せる好天。

八経ヶ岳山頂から熊野方面を望む 釈迦ヶ岳が見える

八経ヶ岳山頂から熊野方面を望む 釈迦ヶ岳が見える

気をよくして、全員そろって下山。その時吉野方面の山々も顔を出してくれました。行者還岳、大普賢岳、山上ヶ岳、稲村ヶ岳と。奥駈道を毎年のように歩いて(修行して)いらっしゃる上野さんも、ここまでクリアに見えたのは初めてというくらいありがたい光景を拝むことができました。

大普賢岳を指さしながら奥駈道の体験を語る上野さん

大普賢岳を指さしながら奥駈道の体験を語る上野さん


右から大普賢岳、山上ヶ岳、稲村ヶ岳が並ぶ奥駈道吉野方面

右から大普賢岳、山上ヶ岳、稲村ヶ岳が並ぶ奥駈道吉野方面

下山、そして温泉へ

元来た道を戻ります。急な登り道だったところは急な下り坂に。しかしみなさんの足取りは軽くほぼ予定通り登山口まで下山。車に乗り込んでみたらい渓谷へ。河原で朝、山小屋で作ってもらったお弁当を食べて、新緑のみたらい渓谷を経て、天河弁財天へ。ここでも役行者の像にお祈りをして参拝を終了。

最後の締めに公衆温泉浴場へ。往路は路線バスで来ましたが帰りは融通が利くようジャンボタクシーで戻るため、ゆったりお風呂で汗と疲れを流し、ビールを傾ける方、休憩室でくつろぐ方、アイスクリームをほおばる方、最後のひと時を楽しんで帰途へとつきました。

みたらい渓谷の河原で思いもいの場所でランチタイム

みたらい渓谷の河原で思いもいの場所でランチタイム

みたらい渓谷を散策。今は新緑ですが秋の紅葉の時期は見ごたえ十分

みたらい渓谷を散策。今は新緑ですが秋の紅葉の時期は見ごたえ十分

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