小川 康の 『ヒマラヤの宝探し 〜チベットの高山植物と薬草たち〜』
ダラムサラにて開催された草野球大会
インド・ダラムサラの森の奥。近くにチベット僧の瞑想小屋もある神聖なグランドの脇に英語、ヒンディー語、日本語の文字で刻まれた小さな記念碑が立っている。
「ここにインド野球はじまる。2003・06・10」
昔、ここに夢を追いかけて移り住んだ日本人たちが、ふるさとを思い出しつつ野球大会を開催したのが、インドの歴史の中で初めての出来事だという。あのとき彼らが白球とともに追いかけたものは何だったのだろうか。今となっては残されたセピア色の1枚の写真からしか当時を推測することができない。記録によるとプレーしていたのは2003年当時、在住25年の仏画師・馬場崎研二氏、18年の建築家・中原一博氏、5年のチベット医学生・小川康氏や現地でボランティア活動をしている日本人とアメリカ人たち。試合は三角ベース2アウト方式で2試合おこなわれ、大人げの無さを発揮した中原氏率いるチームが快勝を収めたとある。また活躍が期待されていた足利市のK眼科医がこの日、大ブレーキで敗因になったとも記されている。さらにこの野球を見学していたクリケットチームが教えを請い、こうしてインド人に野球が伝道された・・・・・
なんてわけはないか。
記念碑だけは冗談としても2003年、あの日の草野球は本当に楽しかった。雨が降り出しても誰も止めようとは言い出さない。試合の後はタオルで頭を拭いて敵味方無く美味しいビールを飲んだのを昨日のことのように思い出す。異国の地でいい年をした大人が繰り広げる草野球には男のロマンが凝縮されていた。
僕は小さいころから暇さえあれば野球をやっていた。特に稲刈りの終わった後の田んぼは絶好の野球場に様変わりする。棒切れ1つと丸いものがあればどこでも野球ができたものだ。隣町の小学校と対抗戦をやると最後にはいつも喧嘩になったのも懐かしい。その後、中学で野球部に入らなかったのは、やっぱり自分が草野球のレベルであることを実感していたからだろう。でもそのおかげで今もこうして草野球の楽しさが増しているのかもしれない。
現代医学とチベット医学の違いについて問われることがよくあり、時に「あえていうなら前者がプロ野球で後者は草野球のようなものです」と、チベット医学を卑下するかのごとき発言で物議を醸してしまうことがある。そして「プロ野球で失敗すると世間から叩かれますけど、草野球は勝っても負けても世間の評判は変わりません。それに、身の周りに草さえあれば医療ができる、まさに文字通り“草医学”なんですよ」というと分かったような分からないような顔をされる。「現代医学が1つ間違えば訴えられるという緊張感のなかで治療するのに対し、チベット医学は決して訴えられることがないというか、そもそもそんな西洋的な概念が存在しない。だからいつものびのびと診察ができるのです」というとようやく少し理解してもらえる。さらに「もしも草野球が価値が無いとして地球上から消え去ったならば、きっと10年以内にプロ野球のレベルは下がるでしょう。逆にプロ野球はなくても草野球は変わらない。じゃあ、草野球のほうが重要ですよね」とオチをつけて聴衆を煙に巻いてしまう。つまり、草野球を土台としてそこからプロ野球選手が生み出されている。そして草野球の裾野が広ければ広いほど、プロ野球の頂点もより高くなっていく。チベット医学と現代医療の関係もそんなものではないだろうか。
だからこの2つがまったく違う医学だと紹介されているのをみると首を傾げたくなるのだ。代替医療なんてお仕着せのカテゴリーにもどうか入れないでほしい。イチローが草野球を眺めても、それを否定したりはしないだろうし、もしかしたら忘れ去ってしまった何かを思い起こさせるかもしれない。それはきっと「楽しむ」ということ。だから日本のお医者さんはどうか懐かしい眼差しでこちらを見てほしい。あなたたち現代医療が歩んできた道程がここにあるのだと気がついてほしい。多くの子供たちがチベット医学を見習って脈診ごっこや、薬草摘みに夢中になる時代がきたなら、きっと医療のレベルは向上するのは間違いないでしょう。そして医薬学部の薬草学の授業にこそチベット医学を活かしていただきたいと願っている。
チベット医学は草医学でいいと思っている。三角ベースで2アウト方式の特別ルールはプロ野球と違うけれどいいではないか。ルールは単純なほうが面白いこともある。医療も時には単純に考えてみると意外と答えが出るかもしれないではないか。草医学バンザイ!草医学を楽しもう!草を楽しむと書いて薬という漢字ができるのだから。
●10月8日から15日まで長野県松本市の神宮寺で馬場崎研二氏の個展が開催されます。
10月11日は13時より「小川康による薬師如来タンカ解説」があります。
詳しくは http://www015.upp.so-net.ne.jp/BabasakiKenji/0200_shows/shows_0.html をご覧ください。
●小諸にて薬草観察会、薬草茶講座を開催しています。詳しくはアムチ薬房のHPをご覧ください。
詳しくは 小川アムチ薬房 のサイトをご覧ください。