添乗報告記●巡礼シーズンに訪れる聖なる都 青蔵鉄道で行く冬のラサ7日間(2024年12月)


添乗ツアー名 ●巡礼シーズンに訪れる聖なる都 青蔵鉄道で行く冬のラサ7日間
2024年12月28日(土)~2025年1月3日(金) 
文・写真 ● 中村昌文(東京本社)

新年をチベット・ラサで迎える人気ツアー、今年も15名のお客様の参加で催行しました。
ご家族連れ2組を除くと、9名が一人参加。「普段は個人旅行だけどチベットだからツアーに参加した」という旅慣れた「大人」のお客様が多く、お客様同士も非常に仲が良くなり、和気藹々とした非常に楽しいツアーとなりました。
添乗の中村は昨年に引き続き2年連続で同行。更に今回は新人の横手も添乗研修で同行し、ツアーを盛り上げてくれました。

そして、今回のツアーは、出発直前に中国ビザが免除になり、添乗員も含め参加者全員がビザ取得不要となりました。面倒な手続きも、ビザ代金も不要になり、最初から「ついている」ツアー。きっといいツアーになるだろうという予感します。

西寧 タール寺へ

前夜、青海省の省都西寧に到着した我々が最初に訪れたのが西寧の郊外・ 湟中にある タール寺(塔爾寺) 。
タール寺は中国語で 「塔のお寺」の意味。 チベット仏教4大宗派ゲルク派の開祖ツォンカパの出生地に建てられた仏塔が基になった大僧院。 チベット名では「クンブム」と呼ばれ、クンブムとは「百万の仏像」の意味。ツォンカパのへその緒を切った際の血から栴檀樹が生え、その葉に仏の姿が浮かび上がったことがその由来だそうです。

先ず、我々を出迎えたのはお寺の入り口に立ち並ぶブッダの生涯の8つの奇跡を記念した仏塔の脇を、五体投地で過ぎていく人々です。1日の最高気温がプラスにならないような寒空の下、広大な大僧院の外周を丸2日かけて、五体投地で尺取虫のように少しずつ進みます。そして、このお寺の中心ともいうべき仏塔が収められたお堂の周りにも、一心に五体投地を繰り返す巡礼者の姿が見られます。青海省のチベット人ガイドのノコさんが「五体投地は身体・言葉・意識(身口意)のすべてを通じて仏教に祈りをささげることだ」と解説してくれます。こうして、五体投地とのファーストコンタクトが行われました。ノコさん曰く「最近は青海省からラサまで五体投地で目指す人も多いんですよ」。西寧からラサまで約2000㎞。1日20㎞進んだとしても3か月以上かかる計算です。信仰の力恐るべしである。

参考:チベット医・アムチ小川の「ヒマラヤの宝探し」

第146回●キャン・チャク ~五体投地~

「世界最大のタンカ」 蔵文化博物院へ

午後からは西寧市の北にある「青海蔵文化博物院」へ。ここは、青海省の同仁で作られた長さ618mもある「世界最大(最長?)のタンカ」が売り物の博物館です。嬉しいことに館内はフラッシュを焚かなければ撮影自由。さすが社会主義です。こういうところは日本の博物館にも見習ってほしいものです。

タンカ以外にもチベット各地の民族衣装の展示は圧巻です。1つで何百万円もするような巨大な宝石やサンゴを縫い込んだド派手な衣装や装飾品は見ごたえ充分です。さらに、ガイドのノコさんが自分の結婚式の時の話や、衣装が母から娘やお嫁さんに引き継がれていく話など、自分の経験に基づいたリアルな話を聞かせてくれるので、皆さん感心されていました。

夕食の前に、スーパーへ鉄道の中で食べるおやつなどを買出しに行きました。
地元の大きなスーパーには日本と同様に野菜や果物、お肉に魚など生鮮食品のほか、洗剤やら雑貨やらが売られています。
しかし、「これはなんだ?」という未知の果物や野菜、日本ではあまりお目にかからない量り売りのヒマワリや瓜の種など、普通の観光ではお眼にかかれないものも多く、生活感満点で参加者の皆さんの目の輝きが変わります。

青蔵鉄道から見えた衝撃的なものとは?

夜、西寧駅を出発

夜、西寧駅を出発


夕飯を済ませて駅に移動し、夜遅く列車に乗り込みます。

西寧駅からゴルムドまでの区間は酸素濃度が調整されず、この夜の間に具合の悪くなる方がいるので高山病対策に十分注意をしたうえで就寝です。
朝4時、アラーム音で目を覚ますとゴルムド駅に到着です。この駅で高所走行用の機関車を接続します。起きられたお客さんは寒さに震えながらもホームをあちこち歩きまわって写真を撮り、乗務員さんに「早く乗れ!」と怒られています。万が一乗り遅れが発生したら乗務員さんたちも責任問題なので、保育園の先生のように乗客の様子に目を光らせています。

ゴルムド駅に到着

ゴルムド駅に到着

朝8時半ごろ、地平線から朝日が昇り、真っ暗だった大地が目を覚まします。茶色い大地が朝日で赤く色づきます。
食堂車で朝食を食べながら、車窓の風景を眺めています。皆さん暖かい車内でのんびりしていますが、窓の外は標高4500m以上の高地なのです。列車は長江の源流域である「沱沱河」を通り過ぎ、益々標高を上げていきます。

11:45頃、いよいよ列車は5,000mの世界に突入、峠の氷河が光り輝きます。こんな環境でも放牧されている家畜がいることが信じられません。11:50頃、ついに最高点タングラ峠(5072m)と、世界最高度の駅タングラ駅(5068m)を通過します。温かい列車内でお茶を飲みながら、2つの世界一を通過。ヤクさん、遊牧民さん、ラクしてごめんなさい。

最高標高地点を通過
タングラ駅も通過

ニンチェンタングラ山脈とヤクの群れ

ニンチェンタングラ山脈とヤクの群れ


雪山、家畜、大草原、時々出現する野生動物など、そんな絶景を眺めながらの列車の旅は続き、あと2時間ほどでラサに到着するというタイミングで、「アッ」と声が上がりました。

五体投地でラサを目指す巡礼者

五体投地でラサを目指す巡礼者

車窓から見えたのは、青蔵鉄道に沿ってラサに続く道を五体投地で進む巡礼者の姿です。タール寺でのノコさんの言葉の通り、その後も何組かの巡礼者を目の当たりにする。一体ここまで来るのに何か月かかったのだろうか? そんな思いを抱きながら列車はラサ郊外の高層マンション群を抜けて、ラサ駅に到着しました。

無事、ラサ駅に到着です

無事、ラサ駅に到着です

ラサ観光で功徳を積む

ここから2日間のラサ観光。最初に訪れたのは「サンゲドゥング」と呼ばれる巡礼地です。

巡礼路リンコルを歩く巡礼者

巡礼路リンコルを歩く巡礼者

ラサの何の変哲もない道路沿いにバスを止めて下車すると、マニ車を持った巡礼者が吸い込まれていく歩行者用の小路があります。小路を進むと現れるのは巨大な岩の崖に穿たれた摩崖仏(サンゲドゥング)と、経文を刻んだ石板を積み上げて作られた「マニ塚」です。
その昔、死者を弔うため(死者がより良い来世に生まれ変われるように)のタンカや仏像が用意できない庶民のために、とある貴族が寄進したという摩崖仏。現在では地元民や、ラサを巡礼で訪れた人々で賑わい、一心に五体投地する姿を目にすることができます。チベットでは「輪廻転生」思想が信じられています。現在の人生での功徳の多寡によって、生まれ変わる来世が変わるというのです。現世で行う功徳は今の幸せのためではなく、来世への「貯金」と言う訳です。

サンゲドゥングの摩崖仏

サンゲドゥングの摩崖仏

「風の旅行社では五体投地は必修科目です」半ば冗談、半ば本気で話しながら、実際に五体投地をしてみせます。早速新人の横手も実践。頭の上、口の前、胸の前の3か所で手を合わせ、全身を大地に投げ出して祈ります。祈るのは「生きとし生けるものが幸せ」だとラサのチベット人ガイド(通称さくら)が教えてくれます。そして、それこそが功徳を積むことなのです。邪気を払い、空間を清めるというお香(サン)の炊き方も習います。香木だけでなく、ツァンパとお水も撒くのが正式なルール。世界遺産でもなく、有名な観光地でもない場所ですが、実は一番訪れてもらいたいチベットらしい空間なのです。ただ見るだけよりやってみることで、何か見方が変わるのではないでしょうか? やがて参加者の皆さんが、次々と五体投地をする姿はなかなか感動的。ツアーに一体感が出た気がします。

五体投地をするお客様

五体投地をするお客様

その後、世界遺産でダライ・ラマ法王の夏の離宮のノルブリンカ、午後からはチベット世界全体の中心地・ジョカン寺(大昭寺)を訪れます。冬の巡礼シーズンなので、当然ジョカン寺前でも大勢の巡礼者が五体投地を繰り返します。しかし、サンゲドゥングで五体投地を行った我々は傍観者ではなく「生きとし生けるものの幸せを祈る仲間」になったような気持ちが芽生えたと思ったのは私の気のせいでしょうか? 皆さんに、きっといい来世が訪れますように。
そして、夕刻には今回のツアーで最大の目玉ともいうべき年越し行事「グトゥ」をするために、郊外の民家を訪れます。

ジョカン寺前で五体投地を繰り返す

ジョカン寺前で五体投地を繰り返す

「グトゥ」で運勢を見る

お邪魔した民家

お邪魔した民家

グトゥ(グトゥク)とは、小麦の団子を入れた水団のような料理で、チベット版の「年越そば」のようなもの。そして、同時にチベット版の「フォーチュンクッキー」でもあります。

「おみくじ」の入ったグトゥ

「おみくじ」の入ったグトゥ


本来はチベット暦の12月29日に家族総出で食べる料理。水団の中にはひときわ大きなものがあり、その中には様々な「もの」が入れられています。それは例えば「唐辛子」であったり、「石」であったりするのですが、最近は紙に「唐辛子」などと書いて入れることも多いそうです。そして、自分のお椀に盛られた団子の中から出てきた「もの」から新年の運勢を占うというのです。

さあ、何が出るかな?

さあ、何が出るかな?

例えば、
唐辛子は「口は災いの元」、塩なら「(塩は比重が重いことから)お尻が重い=いつまでも帰らない人」、紙は「ふらふらして落ち着きがない」など…

今回お邪魔したお宅では、全部で17種類の「もの」を用意したそうですが、なんとツアー参加者の皆さんがほとんどの良い「もの」を引いてしまったそうで、奥さんは「皆さんが帰った後で家族で残りを楽しもうとしたけど、悪いのしか残ってないからやめます」と笑っていました。

グトゥの中に入っている「おみくじ」

グトゥの中に入っている「おみくじ」

実は私が引いたのは「ドゥ(ドゥマ)」。チベットのお正月料理にも使われる小さな芋のような食べ物。漢方薬としてもつかわれるほど栄養があるそうで、とても縁起の良い食べ物です。意味は「商売も、なにをしても、うまくいく」だそうです。お客様を差し置いて一番福をゲットしてしまったかも知れません。今回のツアーもうまくいくこと間違いなし、です。

最後はお約束のコスプレ

最後はお約束のコスプレ

参考 チベット医・アムチ小川の「ヒマラヤの宝探し」

第122回●ドロ・サンジン ~スコップを片手に~

初日の出を浴びるポタラ宮

翌朝は元旦。事前にホテルの担当者にお願いをして屋上を開けてもらい、初日の出に染まるポタラ宮を眺めます。ほかにも宿泊客もいるのに、なぜか私たちだけで独占でした。

2025年の初日の出を浴びるポタラ宮をバックに

2025年の初日の出を浴びるポタラ宮をバックに

そして、その朝眺めたポタラ宮の観光へ。体調管理もうまくいき皆さん元気に「心臓破りの坂」も乗り切りました。午後からは「問答の寺」セラ寺を観光。河口慧海と多田等観の日本人僧侶2人が学んだことでも知られています。夕飯は美味しいキノコ鍋に舌鼓を打ち、ラサ最後の夜は更けていきました…。

心臓破りの坂を上ってポタラ宮内部へ

心臓破りの坂を上ってポタラ宮内部へ

神秘的に輝くヤムドク湖

チベット最終日。まだ寒い朝早くにホテルを出発、チベット3大聖湖の1つ、「トルコ石の湖」とも呼ばれるヤムドク湖を目指します。つづら折りの峠道をグングンと標高を上げていきます。4,000m、4,500m、そして4,700m、最高地点4,749mのカンパラ峠に到着です。早朝に出発したので、峠にはまだ誰もいない「貸切」状態です。峠から湖の向こうには真っ白に雪をかぶったノジンカンツァン峰(7,206m)が朝日を浴びて聳えています。青蔵鉄道の途中駅で外に出たときは、クラクラするような標高でしたが、ラサに3泊もしたので高山病の症状が出る人もいません。

ヤムドクの湖畔からのノジンカンツァン峰

ヤムドクの湖畔からのノジンカンツァン峰


トイレ休憩を取った後で湖畔へ下ります。風がなかったので、冷たい空気が暖かい湖面に触れて白い水蒸気が立ち上っていて神秘的です。角度が変わると見え方も変わります。湖畔には人家も多く、人々が暮らしているのが分かります。半農半牧の生活様式で、夏になればこの辺りは緑に覆われ、ヤクや羊などの家畜の放牧が行われ、畑では大麦や小麦、ジャガイモなどが栽培されるそうです。是非夏にも来ていただきたいですね。

再び、峠を登り記念撮影。美しい湖と雪山、そしてチベット高原に別れを告げて空港へと走ります。空港で昼食を取ったあとはガイドさんともお別れし、下界(成都)へ戻ります。
成都では美味しい中華料理の夕食を食べて、旅の余韻に浸りました。

カンパラ峠からのヤムドク湖とノジンカンサン峰

カンパラ峠からのヤムドク湖とノジンカンサン峰

今回は年末年始ということで人数の多いツアーでしたが、「旅を楽しみたい」という気持ちがあふれる方ばかりで、グループがうまくまとまったように思います。ツアーの進行にも協力的な方ばかりで、皆様随分と功徳を積まれたのではないでしょうか? グトゥのおみくじの通り、素晴らしい2025年をお過ごしいただくとともに、より良い来世が訪れることをお祈りしております。

同じツアーに同行した新人スタッフ横手の研修レポートはこちら

シェアする

関連よみもの

コメントを残す

※メールアドレスが公開されることはありません。