2007年4月28日〜5月12日 文●荻原文彦(東京本社)
ティンリからユンブへの道
「タシデレ〜!」から「ナマステ!」へ。
チベットのラサからネパールのカトマンズまで約1,000Kmの中尼公路を、マウンテンバイク(=MTB)とバスを使って縦断する風カルチャークラブ(=風カル)のアドベンチャー・ツアー。
大穀倉地帯や、荒涼とした5,000m級の峠を持つチベット高原から、緑溢れるネパールの町ドラルガート(約600m)まで、標高差は実に4,500m以上!気候の変化や、民族や暮らしの違いを目の当たりにします。
「標高5,000mを自転車で!?」、「なぜ敢えて自転車なの!?」、「キャンプ生活ってどんな感じ!?」などなど・・・。
タイトルからして冒険心をくすぐられるこのツアーに、添乗員として同行してきました!
現在、風のチベットツアーでは、お馴染みのミドコロ以外に、民家やローカルな巡礼路なども訪れています。年々都市化していくラサで、本来のチベットらしさを体感していただくために現地と知恵を出し合ってツアーを改良しています。 難しいイメージのあるチベット仏教や歴史を、よりわかりやすく理解するために、達人同行のコースも定番となってまいりました。
『自転車でヒマラヤ縦断』は、風カルの自転車講座の講師としてお馴染みの、丹羽隆志さんが同行しました。MTBでチベットの大地と風(薄い酸素)を全身で感じながらカトマンズを目指すというのがメインテーマになりますが、点在する村々を自転車で訪れ、チベット高原で昔と変わらない生活をする人々と交流することこそがツアーの核心でもあります。
ニュー・ティンリから、チョモランマ(エベレスト)を始めヒマラヤの雄姿を見渡せるオールド・ティンリまでは、中尼公路から外れた田舎道を、1泊2日かけて進みます。時々砂にタイヤをとられ手押しする場面 もある悪路?ですが、登下校中の子供達が笑顔で話しかけてきたり、チベット旅行が外国人に解禁された20年程前から、丹羽さんが毎年のように通 い、熱い思い入れのある村を訪問するなど、「スローに走って、ディープな体験!」が楽しめました。
前半(ラサ・ゴンカル空港〜曲水泊〜シュプセ泊〜ラサ市内)
前半(ラサ・ゴンカル空港〜曲水泊〜シュプセ泊〜ラサ市内)
ラサの、空の玄関口ゴンカル空港の駐車場で、それぞれの愛車を組み立て、バルコル周辺のラサ旧市街まで2泊3日の旅・・・。通常は車で1時間〜1時間半ですが、途中の村や尼寺を訪れながらホテル1泊とテント1泊。「旅のリアリティーは、人々との出会い!」ということを実感します。中尼公路とラサ(キチュ)川を隔てた対岸の未舗装路では、パンクが続出しましたが、聖地ラサを目指し高所反応とともに私たちの心拍数は急上昇!?
空港から曲水へ
ラサ市街地へ
中盤(ラサ〜ラツェ〜ニュー・ティンリ〜オールド・ティンリ)
ニューティンリーにて
たくましい遊牧民
1泊2日のラサ観光を終え、チベット文化を今に伝えるシガツェを過ぎ、ラサ〜カトマンズのほぼ中間点であるラツェまではバス移動。ここからテント5泊のアドベンチャーが始まります。
ニュー・ティンリから中尼公路を外れ、未舗装路へMTBでこぎ出すと周囲は褐色の不毛地帯。それでもチベット高原の人々が古より、水源を確保した村々が点在します。登下校中の子供達と笑顔の「タシデレ〜!」を繰り返しながら、とある村を訪問。丹羽さんと20年近い交流のあるこの村の知人の家を訪れ、バター茶で身も心も温まりました。この日はとある村の近く(実際は11Km先)でキャンプし、翌日はチョモランマ(エベレスト)を望むオールド・ティンリ(約 4,300m)を目指します。
そして翌日、丹羽さん曰く「ここが世界一のキャンプサイト!!」である、オールド・ティンリ付近の牧草地へ。チョモランマ(8,850m)、ギャチュンカン(7,952m)、チョーオユー(8,201m)といったヒマラヤンジャイアントのパノラマを楽しむことができます。そうした風景の中に暮らす遊牧民の人々の姿も印象的でした。
とある村への道
とある村で民家訪問
とある村を背に走り出す
とある村付近のキャンプサイト
ピクニックランチ
オールドティンリへのダウンヒル
オールドティンリ付近(牧草地)
オールドティンリ付近(水面鏡)
終盤(オールドティンリー〜ジャンムー〜カトマンズ)
ユンブ近くのゴンパ
ヤルレプ村民
チョーオユーをバックに
最後は、チョモランマを背に2つの峠を越え、標高差4,500mのダウンヒルへ向います。遊牧民の姿もない荒涼とした5,050mの峠(タン・ラ=ニュラム・トン・ラ)へ一筋に続く登りを、それぞれのペースで走破。峠越えを果 たし、ネパール目指して下り行く私たちの前に、ヒマラヤの偏西風が立ちはだかりました。
ネパール・ヒマラヤのロールワリン山群を望む、ヤルレプ(約4,400m)で最後の高所キャンプ後、チベット側の国境の町ジャンム(約2,400m)へ下るにつれ、緑と酸素が濃くなるのを体感します。遅咲きの“石楠花”(ネパール国花、ラリーグラス)などの木花や、チベット高原では見られない山腹の滝が皆を癒してくれました。
ジャンムで、これまでのキャンプ生活などを支えてくれたチベット側のスタッフと別 れ、ネパール側のスタッフと合流。国境を越えると、挨拶は「ナマステ〜!」へ。
アップダウンを繰り返し、緑の棚田を横目に額に汗しながら、ついに標高600程度の町ドラルガートに到着。冷えたビールで乾杯!! ヒマラヤ越えを果たした達成感とともに、旅が終ってしまうことに一抹の寂しさがこみ上げる瞬間でした。
遥か1,000Kmのこれまでの道のりに想いを馳せつつ、バスで最後の街カトマンズへ向いました 。
穀倉地帯の風景
タン・ラ(5,050m)
ヤルレプからロールワリン山群
中国/ネパール国境の橋
カトマンズまで100km、の道標
ナマステー
15日間という長いツアーでしたが参加者同士、文字通り同じ釜の飯&トゥクパ(チベットうどん)を食べ、キャンプ生活を共にすることで一体感も得られ、日々の感動を共有することのできる素晴らしいツアーになったと思います。
MTB走行距離は1日30Km程度。標高の低いところでも40Km〜60Km程度です。各自の体調&体力によって、MTBはトラックに積んでバスに乗り、皆の後ろから声援を送ることもありました。「頑張るんじゃないよ〜!!」と。(高所では頑張りすぎは厳禁)
車でポイントだけをまわる旅行ではなかなか感じることができないのですが、自転車を使うことで、ラサからカトマンズまでが単なる1本の線ではなく、無数の点を結んだ線としてつながったように思います。
多くの方に、この感動を味わっていただきたい!と思いました。