▼6/21~23 「カトマンズ/バラトプル/ソウラハ(チトワン国立公園)」
世界自然遺産に登録されるネパールのチトワン国立公園は、インドゾウ、ベンガルトラ、インドサイ、ナマケグマなどの哺乳類、ガビアル、ヌマワニなどの爬虫類、そして数百種もの鳥類が生息している大きな自然公園だ。4.25に発生した大地震の直後、土砂崩れによりカトマンズからチトワンまでの道路が不通になったとの情報が入ったため、震災後の道路やホテル、国立公園の被害状況を確かめるべく、6月中旬に弊社カトマンズ支店スタッフと実地調査に向かう事になった。結論から書くと、現在でもチトワン国立公園へのツアー催行は全く問題ないことが確認できたのだった。
カトマンズからインド方面へと続くガタガタのハイウェイを車に揺られ、ムグリンという集落から少し南下すると、道路は急峻な渓谷の谷底近くに敷設されるようになる。この辺りが震災時に土砂崩れが発生した箇所らしい。事前に想像はしていたが、いくらネパールといえども、交易の要である「ハイウェイ」を何日も不通にする事はないのだろう。すでに土砂は跡形もなく片付けられており、ものすごい排気ガスを出すインド製のトラックが、クラクションも高らかに走り抜けていった。地震に関係なく落石が頻発しそうな所ではあるが、とにかく、今現在でもいつも通りの往来がある事は間違いない。
更に街道を南下していくと、急峻な谷や広葉樹林は徐々に姿を消し、赤土の大地とゆったり流れる川、そして丈の高いイネ科の植物が目立つようになってくる。いよいよ、チトワン国立公園が位置する「タライ」と呼ばれる平原地帯へやってきたのだ。タライ平原は海抜70m~200m程度の亜熱帯気候に位置し、雨季のこの時期は気温が40℃を超える日もある。昨日まで標高4,000m近い高所を歩いていた私にとっては、犬のように舌を出して喘ぎたくなる環境だ。余談ながら、ここの野良犬はエベレスト街道より短毛である。
さて、チトワン国立公園までの道すがら、一番大きな町がバラトプルだ。街路樹のライチに果実が実り、目鼻立ちの整った女性がカラフルなサリーを着て闊歩している。ちょうど昼食時だったので、道端の適当な食堂に入店した。ネパールではダルという豆のスープでご飯を食べるのが常だが、ここではカレーとナン、そして素晴らしくビールに合うタースという羊のスパイス炒めが名物だそうだ。さすがはインドとの国境付近である。文化風習がカトマンズとはちょっと違う。
チトワン観光の起点となるソウラハの「ロイヤルパーク」というホテルにチェックインした私達は、ホテルの支配人兼ネイチャーガイドであるフレさんと共に、ここの名物であるエレファント・カヌー・ジープの各種サファリなどのアクティビティを楽しむことになった。実質2日弱しか滞在はできなかったが、大型哺乳類のほか鳥類が多く見られ、思いつくだけでも、カササギサイチョウ、ムラサキタイヨウチョウ、カワリサンコウチョウ、インドブッポウソウ、アオショウビン、コウハシショウビン、リュウキュウガモ、ズグロコウライウグイス、セグロカッコウ、バンケン、キンバト、ベニバト、タカサゴモズ、カワリクマタカ、タカサゴダカ、ミナミカンムリワシ、モリスズメフクロウなど、日本では珍しい種類を沢山確認することができた(※)。
ネパールまで支援物資やトレッキング装備を運んだため、撮影機材がスマホとコンパクトカメラだけになってしまった(双眼鏡すら持っていなかった!)のは残念だが、“筆舌に尽くし難い”サファリの魅力をスライドでご覧いただきたいと思う。
そろそろ、犬やライチや女性やカレーやジャングルの話ではなく、地震の影響について書かないといけない。しかし、何を書いたら良いか悩むほど、この周辺で被害は全く見受けられなかったのだ。「ネパール全土が観光どころの騒ぎでない」と思われているフシがあるが、被害が甚大だったのは、本震の震源地であるゴルカ(カトマンズとポカラを結んだ中心付近)より北東側のエリアであり、ゴルカの南側に位置するチトワン周辺では、古い家屋の壁面にヒビすら入っていなかった。もちろん、震災後でもチトワン国立公園の全アクティビティに参加する事が可能だ。
しかし、悲しいことにチトワンで出会った他の外国人は2名だけ。ホテルや商店は閑古鳥が鳴いている状態。雨季で酷暑というシーズン的な理由もあるのだろうが、それにしてもツーリストが少なすぎる。これこそが、チトワンで唯一感じられた地震の被害だった。フレさんを初めとする現地スタッフは、観光客が戻ってくる日を心待ちにしている。ホテル等が整備され、“俗化した”とすら言われるチトワンだが、こんな時だからこそ、静かなジャングルを楽しめるというものだろう。チトワン、しいてはネパール全体の観光産業の復興のために、涼しくなる秋以降に旅行の検討リストへ加えていただければ嬉しく思う。
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